「壊れたり無くなったりしたらまた奉納します」と手作りの仏像を手に微笑む喜代治さん(左)と晴美さん(右)夫妻=埼玉県本庄市の自宅で8月10日
520人が犠牲になった日航ジャンボ機墜落事故の遺体確認作業に従事した看護師が今月、夫とともに作った仏像520体を墜落現場となった「御巣鷹の尾根」(群馬県上野村)のふもとに奉納した。後を絶たない航空機事故に胸を痛め、「空の安全と犠牲者の冥福を祈りたい」と仏像に願いを込めた。御巣鷹の惨事は12日、発生から21年を迎える。
仏像を奉納したのは埼玉県本庄市児玉町の元看護師、宮部晴美さん(68)と夫の喜代治さん(69)。晴美さんは事故当時、群馬県藤岡市内の多野総合病院(現藤岡総合病院)の外科に勤務する看護師で、事故直後から毎晩遅くまで遺体が搬送される体育館で働いた。
遺体の損傷はひどく、遺体の泥を落とし、きれいにふき、検視医師を補助して傷の状態も調べた。通常の病院勤務をこなしながらの作業で、旧児玉町(現本庄市)の職員だった喜代治さんは妻の体を気遣い、毎夜車で迎えに行った。晴美さんは「手や足だけの遺体もあり、大変な事故が起きたのだと分かった。犠牲者の姿は言葉にできなかった」と振り返る。
夫妻はすでに退職し、自適の生活を送っているが、8月になるとあの事故を思い出す。航空会社のミスを報じるニュースが流れるたびに喜代治さんは「御巣鷹を忘れてしまったのか」と憤りを覚えた。事故にかかわった自分たちも何かしたい、と仏像作りを思い立った。5年前から陶芸を習っている夫妻は昨年から陶製の仏像を作り始め、7月末に520体が完成。尾根のふもとにある「慰霊の園」に納めた。
1体の大きさは高さ10センチほど。太っていたりやせていたり、表情も喜怒哀楽さまざまだ。晴美さんは「ご遺族のやすらぎになってもらえれば、ありがたい。これからも時折訪れ、欠けたり無くなった仏像があれば補充していきたい」と話している。【木下訓明】