【ロンドン小松浩】英国当局が10日摘発した旅客機爆破テロ計画はイスラム過激主義者の関与が疑われているが、イスラム系テロだと早々と公言して対決姿勢をむき出しにする米国に対し、英国では慎重な物言いが目立つ。国内のイスラム社会との関係悪化を避けたい英国と、テロ対応をイスラム過激主義者との「戦争」とみなす米国の基本姿勢の食い違いが米英の温度差の背景にある。
ブッシュ大統領は今回のテロ容疑者らを「イスラム・ファシスト」と呼び、欧米社会が直面している対テロ戦争継続の正当性を強調した。またテロ計画に国際テロ組織アルカイダが関与しているとの発言も米国側から積極的に流された。
これに対し英国では、ブレア首相の事件摘発直後のコメントには「イスラム過激主義者」との言葉はなかった。リード内相も10日の記者会見で「英国のいかなる共同体も宗教社会も共通のテロ脅威に直面している」と強調。「国際社会で大量殺人の被害にあっている人々の多くはイスラム教徒だ」と述べ、容疑者グループの素性について詳しく語ることを拒んだ。
英警察当局は10日の摘発直前、英国イスラム評議会など主要なイスラム組織の指導者らにわざわざ電話して容疑者を逮捕することを伝えるなど、イスラム社会を刺激しない配慮が目立つ。
英国では昨年7月のロンドン・テロが、英国生まれのイスラム教徒による犯行だったことを受け、国内イスラム社会との融和が大きな課題になっており、イスラム系英国人への敵対感情をあおる振る舞いは控えている。今回の慎重姿勢は今後の公判維持をにらんで余計な発言を避けるという思惑もありそうだが、根底には米国のように単純に「イスラム過激主義との戦争」とは言い切れない複雑な事情が横たわっている。
毎日新聞 2006年8月11日