台風一過で猛暑が列島を覆っている。暑い日の川遊びは楽しいが、今年は例年以上に注意を要する。梅雨末期に豪雨に見舞われたところが少なくなく、増水の痕跡が残る川は危険を増しているからだ。出発前のチェック項目は--。【澤晴夫、山田大輔】
毎日新聞のまとめで、夏休みに入って水の事故で死亡した人は105人、3人が行方不明になった。このうち川での事故による死者は35人にのぼる。
「毎年行く場所でも、増水後は川の様子が変わるので気をつけて」。日本セーフティカヌーイング協会理事で、自然体験活動推進協議会コーディネーターの斎藤秀夫さん(42)は警告する。
一度増水した川の中は、上流から流されてきた岩で流れが変わり、浅かった場所が深くなることがある。流木や不法投棄された電化製品などが転がってきていれば、体や水着が絡まると動けなくなる恐れも。
川の中だけではない。川土手が濁流でえぐり取られひさし状になったところでは、足を踏み抜き川に落ちる可能性もあるという。川岸には流された杭(くい)や割れたガラス瓶などが残っていることもあり、はだしは厳禁だ。
そもそも、「流れ」のある川は、ちょっとした水遊びでも危険がつきまとう。流れが緩やかに見えても、水中は違う。水が乗り上げる大きな岩の下流では、沈みこむような流れが出来て引き込まれやすい。浅くても、コケで滑ったり岩や水草にはさまれて転ぶと、体が水圧に押さえつけられて身動きが取れなくなることがある。
水温も低い。「今年は冬に記録的大雪が降ったため、日本海側などでは雪解けの影響が夏まで続いている」と新井正・立正大名誉教授(陸水学)。「特にダムの下流は、太陽で温められた表面水ではなく、蓄えられた冷たい水が流れ落ちるため要注意。川が浅くても、流れが速ければ水は冷たい」と語る。
冷たい水中に長時間いると「低体温症」になる危険性がある。国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)の辺見弘院長によると、熱中症と同様、体温の調節が利かなくなった状態で、体温が30度を切ると心臓が規則的に収縮しなくなるという。「大人でも流されたりすれば低体温症の危険がある」と説明する。
では、安全に川遊びをするにはどうしたらいいのか。日本赤十字社健康安全課指導係長の関口忍さんは「まず、どこに危険があるかをチェックしておくことが大事」と話す。目に見えるものだけでなく、ダムの放水時間なども調べる。子どもを遊ばせる時は、必ず下流で、子どもの動きから目を離さないようにする。
ライフジャケットや浮き具を持参するのが原則だが、なければ、ペットボトルを用意しよう。2リットルの空きペットボトルで大人でも浮くことが出来るという。ロープを結べば、おぼれる人を引き寄せることもできる。
川にかかわる全国約120団体の連合組織「川に学ぶ体験活動協議会」顧問の小谷寛二・福山平成大教授(スポーツ法学)は「たとえ水深30センチでも、一瞬で流される。『せっかく来たのだから』と思わず、流れが多いと感じたら、勇気を持って川遊びを中止してほしい」と話す。
日赤は「水上安全法」の講習会を開いており、関口さんは「泳ぎの基本や、おぼれた人の救助、手当てなどを学ぶことができるので、ぜひ受講してほしい」と呼びかけている。問い合わせはナビダイヤル(0570・009595)へ。
毎日新聞 2006年8月11日