「率直な物言いが気持ちいい。2行くらい読んでも残像がのこる。文章の粒が立っている」。選考委員の文芸評論家、加藤典洋さんが激賞する。吉本隆明さんら論客ぞろいの受賞者の列に先鋭的な現代詩作家が加わった。
受賞作は、92~04年の12年間、新聞に連載した文芸時評をまとめたもの。記者会見で「芥川賞をもらったみたいだ」と大きな目を一層丸くした。
文芸時評歴は新聞や雑誌を合わせ約20年。今回は自在な作品評をベースに<文章は作品のなかみ以上に、作者を映し出す><ひとつの時代に複数の「作風」や「手法」はゆるされない>などの卓見をちりばめた。
<イメージにもたれすぎなのだ>など辛らつな文言も交じるが、字面にはさわやかさが漂う。批評の軸がぶれないのに加え、作品への接し方に愛情があるからだろう。
20歳前後で作家の島村利正らに心酔し、文学開眼。詩の第一線で活躍を続け、大正・昭和の不遇な作家を発掘するなど優れた読み手としても知られる。「口語の時代はさむい」といった言葉も流行させ、受賞作でも「文学は実学である」と水際立ったフレーズを放つ。
「現実を開示するのが文学。人間を作り、社会の大事な部分を照らす。逆に、これまで実学に見えた経済学などがあやしげになっている」
ラジオや講演でも文学の効用を説く。「文学は読み手の関心次第でいくらでも深くなる」が持論だ。【米本浩二】
【略歴】荒川洋治(あらかわ・ようじ)さん 福井県出身。早大在学中に詩集「娼婦論」(71年)でデビュー。「水駅」(75年)でH氏賞。自ら出版も手がけ新人の詩集238点を出している。57歳。
毎日新聞 2006年8月30日