消費者金融などへの返済で国民健康保険料を支払えなくなり、保険証を取り上げられる「無保険者」が増えている。医療費が全額自己負担になるため病院に行かず、重病になったり、死亡した人もいる。利息制限法(15~20%)を超えるグレーゾーン金利で返済を続け過払いになっている場合が多く、弁護士らは「消費者金融からもっと過払い金を取り戻せば、保険料を納められる人は増える」と指摘している。【多重債務取材班】
◇「生活苦で余裕ない」
建設会社に勤めていた愛知県一宮市の男性(58)は87年、仕事上の付き合いで大手消費者金融から20万円借りた。会社が倒産し、コンビニエンスストアの経営を始めたが赤字が続いた。住宅ローンや子供の学費を払うため、借りては返したが、99年に保険料を払えなくなり、持病の糖尿病の治療をやめた。
生活苦が原因で離婚し、店も閉めた。大型車の運転手をしながら返済を続けたが、一昨年、右折信号の矢印が見えなくなった。1年後には失明寸前になる。やむを得ず病院に行くと「糖尿病の悪化が原因」と診断された。生活保護を受け、手術で失明は免れた。
消費者金融に今も50万円の借金があると思っていたが、弁護士から「97万円の過払い」と知らされた。保険料を滞納する2年前から、支払わなくていい利息を返し続けていた。男性は「生活が苦しかったから、金利が高いか安いか考える余裕もなかった」と言う。
男性の債務整理を担当する滝康暢弁護士は、この3年間で16人の過払い金を消費者金融から取り返した。「利息制限法の金利なら保険料を滞納していなかった人がほとんど」という。一宮市では国民健康保険税の未納が05年度末で1万5758世帯と4世帯に1世帯に上る。3年以上の滞納金は29億2000万円で、弁護士は「うち7割は過払い金を取り戻せば支払える」と試算する。
島根県益田市では昨年12月、自営業者の67歳の男性が持病の高血圧や頭痛を抱えながら診療をためらい、くも膜下出血で死亡した。家族が弁護士に相談し、約1500万円が過払いになっていたことが判明。長男(40)は「生前に過払いと分かっていれば」と悔やむ。
毎日新聞の調べによると、国民健康保険料の長期滞納を理由に、医療費の全額自己負担を求められる「無保険者」は04年度に全国で30万世帯を超えている。
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毎日新聞 2006年9月1日 東京朝刊