北九州市の連続監禁殺人事件で殺人罪などに問われ、1審の福岡地裁小倉支部で死刑判決を受けた緒方純子被告(44)の弁護人が31日、福岡高裁に控訴趣意書を提出した。弁護人は事実関係を認めたうえで「首謀者の松永太被告(45)の虐待で自らの行動を制御できる状態になかった」として無罪を主張している。控訴審では緒方被告の刑事責任能力の有無が争点になりそうだ。同じく死刑判決を受けた松永被告の控訴趣意書の提出期限は7日に延長された。
昨年9月の1審判決によると、松永、緒方両被告は96年2月、同市小倉北区のマンションで、監禁事件の被害少女の父親(当時34歳)を殺害。98年1~6月には緒方被告の母親(同58歳)と妹夫婦一家4人の計5人の首を絞めるなど虐待して殺害した。97年12月には緒方被告の父親(同61歳)を通電虐待による傷害で死亡させた。
判決は、松永被告がすべての事件を主導し、緒方被告らが実行したと認定。緒方被告に有利な情状として(1)自分の意思で虐待をしたことはない(2)反省して各事件を自白した--ことなどを挙げたが「情状を最大限考慮しても酌量減軽はできない」として死刑を言い渡した。
弁護人によると、緒方被告は「自らの罪は極刑に値する」との思いはあるが「どうしてこのような事件を起こしたのかを明らかにしたい」と望んでいるという。通電などの数多くの虐待によって思考や行動にどのような影響があったのかの分析を通し、事件の真相を理解したうえでの量刑判断を求める。
控訴趣旨書では、1審判決が「松永被告の意図に完全に同調してその指示を受けつつも、それなりに主体的で積極的な意思で犯行に加担した」と結論づけた点について事実誤認と主張。松永被告による暴力や虐待によって刑事責任能力は失われていたとしている。また、事件当時の異常な心理状態について専門家による分析を実施するよう求めている。【木下武】
毎日新聞 2006年9月1日