訓練で陸上自衛隊の輸送ヘリで救助に駆けつけた災害医療派遣チーム=東京都足立区の荒川河川敷で1日午前10時29分、馬場理沙写す
いつ来てもおかしくない「その日」に備え、防災の日の1日、早朝から全国各地で防災訓練が行われた。前日に最大震度4の揺れに見舞われたばかりの首都圏では、東京都など8都県市が震度6強の首都直下地震を想定した訓練を展開。「東京23区で死傷者16万人、帰宅困難者450万人」。参加者は予想される空前の被害に対応しようと、住民や自治体、企業などさまざまなレベルでの「連携」をテーマに訓練に取り組んだ。
◇広域搬送
全国から被災地に駆けつけた医療チームが、患者を被災地外の病院へ次々と運ぶ広域医療搬送の訓練も実施した。
宮城、兵庫など計23都府県から、厚生労働省が認めた災害派遣医療チーム(DMAT)など40チーム203人が参加。足立区の荒川河川敷と埼玉県の航空自衛隊入間基地を被災地と想定し、神戸、仙台両空港など計4カ所の拠点から自衛隊の輸送機やヘリコプターで駆けつけた。
足立区の訓練会場には、けが人役のボランティア12人が救急車で次々と運び込まれた。DMATの医師らが救急隊から引き継ぎ、担架でテントへ収容。「気分は悪くないですか」「大丈夫ですよ」などと呼びかけ、骨折した足を固定するなど、ヘリコプターの搬送に備えた処置をした。
◇帰宅困難者
東京都足立区の北千住駅周辺では、地震で交通網がまひして帰宅が困難になった帰宅困難者に対応する訓練が行われた。埼玉、神奈川、千葉の3県から都内へ通勤する「昼間都民」が主な対象で、3ルートに分かれて駅前から荒川河川敷まで歩き、水上バスなどに乗り込んで各県へ向かった。
第一陣の埼玉ルートには約90人が参加し、午前9時半ごろ駅前を出発。雨が降りしきる中、傘を差したりカッパを羽織ったりして、都職員らの誘導で荒川河川敷へ向かった。埼玉県幸手市の会社員、福田政雄さん(50)は「地震が発生すると、本当に帰れるかどうか分からないので、良い体験になります」と話していた。
◇ライフライン
「上水断水率46.3%、停電率22.9%」。東京23区の甚大なライフライン被害を想定し、足立区の荒川左岸では、都や東京電力、NTT東日本による復旧作業訓練が行われた。計約80人が仮ケーブルの敷設や地震で泥が入った下水管の洗浄などに取り組んだ。
都水道局は水道管の耐震性を実証するデモンストレーションを初公開。鉄が主成分の金属「タグタイル」製の水道管は地震に強く、継ぎ目部分の専用ストッパーで管同士が外れるのを防ぐ仕組み。内径50センチ長さ3メートルの管を9本つなげてクレーンで地上数メートルまで持ち上げても管はつながったままで、参加者は感心した様子で見守った。
◇ネットを活用
インターネットを活用し、多くの人に被災地の情報をリアルタイムで伝えることを目指す初めての防災訓練も行われた。
横浜市の総合防災訓練には、東京都品川区のベンチャー企業「レスキューナウ」(市川啓一社長)が参加。青葉区内9カ所の訓練会場から、GPS(全地球測位システム)付きの携帯電話を手にした参加者が、倒木現場などの情報を写真と一緒に同社へ送信した。同社のオペレーターは、一般に公開している同社サイトの地図に寄せられた情報を次々と張り付けた。國貞至常務は「GPS付きの携帯電話を使えば、正確な位置が分かり、災害情報の質が高まる」と話した。
同社は正午からは、インターネット接続事業者最大手の「ニフティ」と共同で運営するサイト「防災の日特集2006」に、宮城県沖地震の発生▽東海地震の発生▽大型台風の上陸--の訓練情報を全国3ブロックごとに掲示。不特定多数の利用者に情報提供を呼びかけ、サイト上で共有する訓練も行う。
◇福井日銀総裁も初参加
最悪で112兆円の経済的被害が想定され、経済中枢機能への影響も懸念される首都直下地震。訓練には日銀の福井俊彦総裁が初めて参加した。
福井総裁は、1日朝に首相官邸で開かれた政府の緊急災害対策本部会議に、テレビ会議システムを使って参加。小泉純一郎首相に「日銀の本支店の建物には大きな被害はありません。電算センターのコンピューターに障害が発生したので、大阪のバックアップセンターへの切り替えを行っています」と報告。小泉首相が「政府として支援することがありますか」と尋ねると、福井総裁は「国民に冷静に行動されるようメッセージをお願いします」と答えた。