9月1日から、酒類販売の地域規制が撤廃され、免許さえあれば、全国どこでも酒の小売店出店が可能になった。指定地域での新たな免許交付を停止していた「酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法」が8月末で失効したためだ。新規参入できなかったスーパーやコンビニエンスストアなどは、一斉に免許申請を行う構えで、既存の小売店との競争が一層激しくなりそうだ。【高島博之】
◇新規4000件以上?
全国の小売業免許数は、01年度末が15万1343件▽02年度末15万4759件▽03年度末16万5915件▽04年度末17万1674件--と増加の一途。一方で、廃業や取り消し件数も、01年度は3621件▽02年度4587件▽03年度6934件▽04年度7206件--と増え続けている。
コンビニ最大手「セブン-イレブン」は、全国約1万1300店のうち、約1400店が規制のため酒の販売が行えなかった。大手スーパー「イオン」の場合は、370店舗のうち49店舗。両社とも1日~10月2日の申請期間中に、すべての店舗が免許申請を行う予定。他社も追随する見通しで、コンビニに行けば酒が買える時代になる。「指定地域から4000件以上の申請があるのでは」と国税庁はみる。
コンビニで問題になるのは未成年への販売だが、セブン-イレブンは、酒類のバーコードをレジで読み取った場合、従業員側の画面に客の年齢確認を指示する独自のシステムがあり「年齢が確認できない時は販売しないことを徹底する」(広報担当者)いう。
既存店も黙ってはいない。静岡県西部の卸・小売28店で作る「遠州夢倶楽部」は12年前、ディスカウントストアに対抗する目的で設立されたが、安売りは厳禁。オリジナルの日本酒などを次々と開発して発売しているほか、地元のジャガイモを使った無添加のポテトチップスやカレーなどの独自のヒット商品を打ち出し、競争を乗り切ろうとしている。事務局の鈴木彰さんは「ほとんどの店が売り上げを伸ばしている。新しい店が増えても関係ない」。
関係者によると、このほかにも、大津市や秋田県藤里町など、各地で小売店や酒販組合がプライベートブランドの日本酒を酒造メーカーと共同開発し、売り上げ拡大を目指す動きが広がっている。日本酒の消費量が減少し、酒造メーカーの生産設備に余剰が出ていることが背景にあるという。
◇規制緩和めぐり攻防
酒の小売りを巡る規制緩和では95年3月、免許基準緩和が閣議決定され、01年1月に小売店の立地距離を規制した「距離基準」が、03年9月に人口を基にした「人口基準」が廃止された。
危機感を強めた小売業者団体「全国小売酒販組合中央会」の政治団体「全国小売酒販政治連盟」(酒政連)が国会議員に働きかけ、03年4月に経営の悪い店の多い地域で新規免許交付を停止し、経営改善を促す同法が議員立法で成立した。事実上の出店規制で、当初は05年8月末までの時限立法だったが、今年8月末まで延長されていた。
中央会は「もうみんなで生き残っていくのは難しい。やる気のある店の経営が成り立つよう支援する」と話している。
指定地域内にあった埼玉県川口市で酒店を経営する男性(68)は近くのコンビニエンスストアが小売り免許を取ると聞き、今秋にも店を閉めることを決めた。「24時間営業のコンビニには到底かなわない。おやじの代から60年近くやってきた店だから本当に悲しいよ」。男性は寂しそうに話した。
指定地域の廃止で新規出店と廃業がさらに加速することは確実だ。
毎日新聞 2006年9月1日