中国の文化大革命開始から今年で40年。狂気の時代から急速に経済発展する現代中国へと、相反する時代を生きる庶民の姿を描いた長編小説「兄弟」が中国で大きな反響を巻き起こした。「人間性を否定し抑圧された文革と、何もかもが開放され欲望が渦巻く現代という極端な二つの時代を真正面から描きたかった」
長編小説の発表は10年ぶりだ。昨夏に出版した上巻で残酷な文革期を、今春の下巻で浮足立つ現代を描いた。タブー視される時代の暗部に切り込んだ精緻(せいち)な描写が民衆の心をつかんだ。純文学にもかかわらず100万部に迫る。ベトナムで翻訳出版され、日本や欧米でも出版話が進む。8月中旬から、国際交流基金の招きで初来日した。
文革のため小学1年から中学卒業までは授業がなく、街には他者を批判する壁新聞があふれていた。あらゆる技巧を駆使した表現に文学への興味を抱いた。その後、医師だった親の勧めから歯科医になったが性に合わず23歳で作家に転じた。
「兄弟」では文革時代に少年期を過ごし、大富豪になり上がった主人公に、まともに教育を受けられなかった文革世代の思いを重ねた。「西欧は抑圧された中世から現代まで400年以上かかった。だが中国では文革から現代までが40年に凝縮され、大きな流れが起こった。二つの時代を生きたのは貴重な経験」と語る。「急速な経済繁栄の中、荒唐無稽(むけい)なものが満ちている」。変容する社会を見つめ続ける。(鈴木玲子)
【略歴】余華(よか)さん 中国浙江省出身。46歳。92年の小説「活(い)きる」(邦訳、角川書店)がベストセラーに。94年、中国の張芸謀監督によって同名で映画化された。
毎日新聞 2006年9月4日