まさに前途多難の様相である。イランは7月末に採択された国連安保理の警告決議に従わず、期限(8月31日)までにウラン濃縮関連活動をやめなかった。イランが国際社会の懸念に答えようとしないのは残念であり、国家としての信用を自ら損なう行為と言わざるを得ない。
国際原子力機関(IAEA)の報告書によると、イランはウラン濃縮を継続しているばかりか、現地調査に必ずしも協力的ではなかった。ある核関連施設では、高濃縮ウランの痕跡もあった。イランの核開発について報告書が「平和的な性格なのか確認できない」と結論付けたのも無理はない。
この報告を受けて、米国などは経済制裁を盛り込んだ次の安保理決議採択をめざす構えだ。イランとの関係が緊密な中国やロシアは制裁論議に消極的だが、イランが濃縮活動をやめない限り、安保理としては「次の措置」を検討するしかあるまい。
無論、新決議を急ぐことだけが能ではない。制裁を科すにも、どんな内容にするかという問題もある。話し合いの道は広く開けておき、多様な選択肢を持って柔軟に対応すべきだ。安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国は、イランが濃縮などを停止する見返りとして軽水炉建設の支援や核燃料提供などを提示している。イランは8月22日の回答でウラン濃縮停止は拒んだものの、話し合いには前向きな姿勢を示した。
このため、中露に加え欧州諸国も当面イランとの対話を続ける方針だが、その背景にはレバノン情勢が絡んでいる。レバノン南部の国際部隊に参加する欧州諸国は、シーア派民兵組織ヒズボラに強い影響力を持つイランとの関係悪化を望まない。ヒズボラなどの出方によっては部隊の任務に支障が出るし、兵士の身に危険が及ぶ恐れもあるからだ。
核問題とレバノン問題は別である。だが、現実問題としてレバノンの重圧が欧州諸国にのしかかることを思えば、ここは、イランとも欧米とも関係が良好な安保理メンバー・日本の踏ん張りどころではないか。イランと欧米の橋渡し役として、平和的解決の糸口を探してほしい。制裁に反対する中露は、これまで以上にイラン説得に努めるべきである。
気になるのは、レバノン情勢に関連して米国がイランへの反発を強めていることだ。ブッシュ大統領は8月末の演説で、ヒズボラを含むイスラム急進派を「ファシストやナチス、共産主義者」などの後継者と指弾し、ヒズボラの陰にいるイランやシリアにも厳しい姿勢を打ち出した。
他方、イランのアフマディネジャド大統領がブッシュ大統領とのテレビ討論を呼びかけて拒否されるなど、両国関係はぎくしゃくしている。だが、感情的な「言葉の戦争」にはまり込んではならないし、米・イランの関係改善は有益としても、首脳討論の提案が時間稼ぎであっては困る。イランは何よりもまず、自らの疑惑を解消すべきである。
毎日新聞 2006年9月4日