名古屋市西区で今年4月、家庭内暴力の激しかった長女(当時28歳)の首を電気コードで絞めて殺害したとして、殺人の罪に問われた父親の同区香呑町、保険代理店経営、丹下正貴(60)と母親の無職、陽子(61)の両被告に対し、名古屋地裁は7日、懲役4年(求刑・懲役6年)の判決を言い渡した。柴田秀樹裁判長は「他人には測り知れない苦渋の選択として犯行に及んだ両被告は、まことに同情すべき」としながらも、「殺害するという最悪の結果は回避し得た。刑事責任は重大」と述べた。
判決によると、両被告は4月21日朝、自宅で、長女の頭をガラス製の灰皿で殴り、首を電気コードで絞めるなどして殺害した。
柴田裁判長は「一時的に長女を入院させたり(被告自身が)身を隠すなどの方法を取ることは出来た」とし、「重度の人格障害があった長女に落ち度があるとは言えず、(事件が)同じような境遇の家族に与える悪影響も懸念される」と述べた。一方で、「親としての愛情からひたすら暴力に耐え、有効な援助を受けられないまま苦しんでいた両被告には、酌むべき事情も多くある」とした。
長女は99年ごろから日常的に暴力を振るうようになり、04年7月には人格障害と診断され通院していた。公判で検察側は、症状が好転する可能性を指摘し、「子どもの窮状を打開しようとするのが親。殺害は正当化できない」としていた。
一方、弁護側は「保健所や警察にも相談したが救いにはならず、支援体制は貧困だった」と主張。事件当日、正貴被告の首を絞めるなどした長女の首にコードを巻いたという陽子被告は「(長女を)心の苦しみから救ってあげたかった」と動機を述べていた。【加藤隆寛】
毎日新聞 2006年9月7日