テロの犠牲となった息子ジョセフさんの遺影を手にするビル・ドイルさん(03年12月撮影)=AP
【ニューヨーク和田浩明】米同時多発テロから11日で5年。なぜ、実行犯が旅客機に乗り込み、乗っ取ることができたのか。大切な家族が巻き込まれた大惨事を防止することは本当に不可能だったのか--。事件の真相究明を求めて米当局への働きかけを続けている遺族がいる。
最大規模の遺族団体「9・11家族連合」(約7000人)の役員を務めるビル・ドイルさん(59)もその一人だ。息子のジョセフさん(当時25歳)は職場のあった世界貿易センタービルで亡くなった。「理不尽な死を遂げた息子のためにも真実を知りテロを防ぎたい」。その思いがドイルさんを突き動かしている。
現在、同時テロ実行犯が旅客機のハイジャックに成功した理由などに関する情報の開示を米運輸保安局に求めているが、反応は思わしくない。「テロリストを利しかねない機微の情報だ」として同局が公表を渋っているのだ。ドイルさんは「なぜ犠牲者の遺族に出せないのか」と憤る。
ドイルさんらの働きかけで、下院は同局に情報公開度の向上を求める法案を可決したが、上院審議の行方は不透明だ。「将来のテロを防ぐための適切な対策を立てるには、政府が情報を包み隠さず、国民が事実を正確に知ることが第一歩だ」とドイルさん。
ドイルさんは同時テロを計画、支援した容疑者らの刑事訴追が進んでいないことにも不満を抱き、遺族らの相互支援活動に取り組んできた。国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者を資金面で支援したとして中東の政府関係者を相手取り損害賠償を求める訴訟を約600人の遺族らとともに起こした。
ローリー・バン・オーケンさん(51)は夫のケネスさん(当時47歳)を世界貿易センタービルで失った。「この5年、自分の家族に何が起きたのかを知ろうとしてきた。けれども、当局の対応には怒りと不満が募るばかりだった」と語る。「5年前、家族に何が起き、誰に殺されたのか」。その答えを求める遺族たちの戦いは続いている。