「被告人の命を持って、罪をつぐなう他はない」。奈良地裁で26日開かれた奈良市の有山楓(かえで)ちゃん(当時7歳)誘拐殺害事件の判決公判。奥田哲也裁判長が後回しにした主文を読み上げ、「死刑に処す」と述べると、判決文朗読に静かに聴き入っていた法廷内にどよめきが起きた。その瞬間、父茂樹さん(32)は目を真っ赤にして小林薫被告(37)をにらみつけ、楓ちゃんの遺影を抱いた母江利さん(30)はじっとしたまま。一方、「早く死刑になりたい」と繰り返していた小林被告は表情を変えなかった。04年11月の事件発生から1年10カ月余り。司法は極刑を選択した。
開廷から約1時間半がたった。奥田裁判長が「前に出なさい」と促すと、小林被告は被告人席からむすっとした表情で立ち上がり証言台に。奥田裁判長は「被害者の数だけをもって死刑を回避すべきことが明らかであるとは言えない」と述べ、死刑判決を言い渡した。
茂樹さんはハンカチを握りしめ、組んだ両手を顔に当てて目をつぶった。退廷する小林被告をにらむ目は真っ赤だった。江利さんは女性警察官から声をかけられると、小さくうなずいた。
奥田裁判長の判決朗読は午前10時過ぎに始まった。小林被告は初めて口ひげを伸ばして法廷に現れ、グレーの半袖姿。奥田裁判長が「求刑にかんがみ、主文は最後に朗読します」と述べ、「長くなるので座って下さい」と言うと、証言台から被告人席に戻り、右手で右足の太ももを数回、軽くたたき、目を閉じて静かに判決を聞いた。
自らが情状鑑定人に述べた、楓ちゃんに睡眠薬を飲ませようとしたら既に死んでいたという、殺害を否定する話について、「検視結果にもなく、虚偽と断ぜざるを得ない」と指摘されると、大きく体を揺らし、「なんだよ」というように不満そうに口を開く場面もあった。
判決文朗読の間、江利さんはピンクの布に包んだ遺影を抱えるようにうつむいたまま。判決が動機などに触れ、「冷酷で非人間的な行為だ」と述べるとハンカチを目にあて、時折、すすり泣くように鼻を押さえた。茂樹さんはひざに手を当てて、裁判長の方をまっすぐに見据えた。楓ちゃんが幼い命を奪われた事件の詳細が法廷で再現されると目を閉じ、唇をかみしめた。
6月26日の最終弁論で意見を聞かれ「何もありません」と述べた小林被告は、今月に入り「死刑にして欲しい」という内容の手紙を裁判所に送っていた。しかし、事前に弁護人から「死刑の場合は控訴する」と弁護方針を伝えられると、黙って聞いていたという。
一方、楓ちゃんが通った奈良市立富雄北小(同市富雄北1)では、この日も地元住民や保護者に付き添われながら児童が登校。田中弥彦(ひろひこ)校長によると、楓ちゃんの机と椅子は今年4月、校長室に移され、机の上には白いユリや黄色い花などが絶えない。廊下には、両親の寄付で制作された、子どもたちの遊ぶ様子が描かれた絵が飾られているという。
田中校長は「いかなる判決が出ても両親の心が癒やされることはないだろう。本校職員、保護者、地元の人にとって事件は終わることはない。改めて冥福を祈りたい」と話した。