「韓国儒教の故郷」と呼ばれる安東(アンドン)市の職員になって丸3年。韓国の自治体が正式採用した初めての日本人だ。
ソウル留学で身に着けた韓国語を生かす職業を探していた時、安東市の職員募集を知り、応募した。合格したものの「戸惑いもありました。保守的な土地柄なので、受け入れてもらえるか不安でした」と振り返る。
外国籍であるため政策決定には関与しない。文化財の案内掲示板の日本語バージョンを作成したほか、京都市長が会長を務める「世界歴史都市連盟」に加盟する時は、資料作りや説明役として汗を流した。日本の行政制度の説明資料を作成することもある。市長の通訳も大きな仕事だ。
英国の女王が訪問したことで注目を集めた安東市。人気映画スターの生家もあり、最近では日本人観光客が多い。中年女性を中心にした「韓流ブーム」については「日本にいたころは想像できないことだったので、驚いていますが、日韓の距離が短くなったのはうれしい。政治問題などでこれが離れることのないよう願ってます」という。
韓国ではソウルや釜山など、日本人スタッフを採用する自治体が増え、希望者も増加傾向だ。「こちらで生活するには、積極性と柔軟性が必要。そうでないとストレスがたまります」
実家の両親からは「早く帰って来い」と言われるが「貴重な経験なのでもう少し頑張ります。博士課程に進学もしたい」。当分、韓国から離れることはなさそうだ。(河出卓郎)
【略歴】緒方恵子(おがた・けいこ)さん 熊本県植木町生まれ。北九州市立大卒。ソウル外国語大大学院修士課程修了。専攻は日韓の比較文学。安東市内の市営アパートで1人暮らし。28歳。
毎日新聞 2006年10月22日