代理母や他人の卵子で子供を得た夫婦にアンケートを試みたことがある。「あなたにとって家族とはなんですか」などの質問を10項目並べ、米国での代理母出産をあっせんしている業者を通して送付した。
日本で暮らしている夫婦が渡米し、代理母を使って子供を得たことを報じたのは92年4月。その後、「他人の卵子で初めて日本人夫婦が妊娠」「夫の精子と他人の卵子による受精卵で代理母が妊娠」などの記事を書いてきた。生殖補助医療は不妊の夫婦には福音だが、子供にとっては遺伝上の母、生みの母、戸籍上の母が異なり、さらに遺伝上の父と戸籍上の父も異なる可能性がある。社会的論議がないまま現実ばかり先行していいのか……という思いから問題提起したつもりだったが、記事が出る度にあっせん業者に顧客が殺到する結果を招いた。
どんなつもりで代理母を求めるのか。好奇の目にさらされることを恐れて当時は直接取材を拒まれたが、アンケートには6通の回答が返ってきた。「自信をなくし、何度も離婚を考えた。数ミリの卵子は譲り受けましたが、残りの何十億もの細胞は私のおなかで育てたものです」。不妊への苦悩や周囲の視線、国内の医療機関への不信など、いずれの回答も切実な言葉がぎっしり並んでいた。
タレントの向井亜紀さんや根津八紘医師によって代理母がまた論議の的になっている。法規制を急ぐべきだとの意見は強いが、10年以上前から言われ続けており、簡単に社会的合意が成立するとは思えない。生まれてくる命について苦しみながら考え続ける社会であってもいいと思う。
毎日新聞 2006年10月22日