ロシアから北海道に向けて航行中、北海道寿都町沖の日本海で荒天のため荷崩れを起こした貨物船=03年6月(海保提供)
海が荒れる冬を前に、海上保安庁が「日本周辺の海で貨物船からまた木材が流出するのではないか」と頭を悩ませている。日本近海では、貨物船からの木材流出事故が毎年数件ずつ起きているが、昨年は過去最高の7件に達したためだ。いずれもロシアから日本に向かう船で、原因は荷崩れ防止の不徹底という単純な理由だった。海保は「日本に来る前に対策を打たなければお手上げ」として、今月、ロシア政府に対し荷崩れ事故の防止に協力するよう要請した。
海保によると、昨年12月、北海道寿都町沖約50キロの日本海を航行中のロシア発の木材運搬船(2978トン、乗員19人)で、荷物を留めていたワイヤが切れ、マツやシラカバ計約8万4000本が海上に流出した。海保の巡視船が出動し一部は回収したが、大部分が漂流した。他の船にぶつかる被害はなかったが、昨年の冬だけでロシアを出港した船による同様の事故が日本の近海で7件発生している。
漂流する木材は船の航行に極めて危険だ。今年4月、鹿児島県の佐多岬沖で高速船「トッピー4」が流木に衝突、衝撃で100人以上が負傷した。流木との衝突事故は、海保が把握しているだけでも昨年までの10年間に25件あり、漁船やプレジャーボートが沈没したり、航行不能となる被害が出た。海保への報告がないケースでも、スクリューが破損したり、船体にひびが入るような重大事故に結び付く被害が相当数あるとみられる。
海上人命安全条約などの国際条約では、木材の積載量の制限に加え、甲板に頑丈な落下防止さくを設置する▽ワイヤロープで固定して、緩み防止の特殊器具も付ける--などの荷崩れ防止措置を定めている。しかし、事故を起こした船はワイヤが不足したり、支柱が弱かった。海保は対策を徹底すれば事故は繰り返されないとして、ロシア国内から出港する船に対し指導を徹底するよう求めている。
ロシアへの要請は3年連続で3回目。これまでは要請が生かされず、海保安全課も「小さな港まで指導を徹底してくれるのか」と不安視する。しかし、「日本に来る前の法令違反は手の打ちようがなく、文書での要請が限界」と、ロシア側の“善意”に期待するしかないのが現状だ。【種市房子】