郵政造反組の自民党復党に向けての動きが加速している。有権者への背信行為だと言わざるを得ない。
昨年の衆院選で、当時の小泉純一郎首相は郵政民営化を争点にし、それを有権者に明確に示すために民営化法案の反対者を公認せず、さらに「刺客」候補をぶつけた。当時、国民に争点をはっきりさせるという点で、私たちは「公認拒否は当然だ」と主張した。小泉首相は「古い自民党とは手を組まない」とも言い切り、仮に造反組が当選しても、それは復党や連携がないことを意味していた。
そのけれんみのない姿勢は有権者の心をとらえ、296議席という自民党大勝の要因になった。それからすれば、復党の動きは過去の経緯を無視し、来夏の参院選対策を優先したご都合主義である。
選挙からまだ1年余。安倍晋三首相は23日「首相指名で私を支持し、所信表明の方向性に対して同じ考え方をもっている人たちにどう対応していくか。幹事長をはじめ党本部で検討してもらう」と語った。すでに党内では調整が始まり、復党に向けての条件作りなどが焦点になっている。
現在、郵政法案に反対した衆院の造反議員は17人いる。そのうち首相指名で安倍首相に投票した12人が復党の対象となっている。もともと同じ考え方の議員が無所属にいるのは不自然だという声もあるが、この時期に復党問題が浮上したのは、参院選に向けた参院側の要請という面がある。01年に「小泉ブーム」の中で自民党が圧勝した選挙の改選期にあたり、前回勝った分、苦戦は免れない。自民党には参院での与野党逆転という危機感がある。
郵政造反組は、衆院選を逆風の中で勝ち抜いただけに後援会組織も強く、特に参院選で民主党との勝敗の分岐点と言われる1人区では、自民党にとってその支援が欠かせないという事情がある。
ただ、自民党は衆院選で、造反組は古い党の象徴であり、抵抗勢力を改革派の「刺客」が打ち破るという構図を描き、選挙戦全体のイメージを作り上げた。それが今度は、その人たちに参院選での救世主を期待するというのか。あの郵政解散の大義は何だったのか。「小泉劇場」の木戸銭を返せと怒る有権者もいるだろう。
党内部でも世論の支持が得られるのかとの慎重論がある。小泉前首相は24日、武部勤前幹事長に対し「参院は間違っている。復党させないと選挙にならないと言っているのは、逆だ。新しい自民党に期待している人が逃げていく」と反対論を展開した。それは組織選挙を志向する参院幹部への批判であり、造反組と対決した当時の責任者として当然の発言だろう。
小泉政権の中枢にいた安倍首相は、前首相の言葉をどう受け止めるのか。首相は日中、日韓首脳会談の再開、北朝鮮の核実験への対応など手堅い政権運営を見せ、衆院補選でも2連勝し、滑り出しは好調だ。ただ一つのつまずきで、がらっと空気が変わることがある。世論を軽くみないでほしい。
毎日新聞 2006年10月25日