不正な利益水増し問題で信用を失い、上場廃止の瀬戸際に立たされた日興コーディアルグループは、米シティグループの子会社になり、経営立て直しを図る道を選んだ。シティは、日興の経営基盤を取り込み、日本で証券、銀行、消費者金融をそろえた一大勢力への進化を狙う。日興は、シティ傘下で信用を回復し、危機を乗り切る構えだが、外資主導の再生に不安も抱えた再出発となる。【木村旬、瀬尾忠義、赤間清広】
「不正会計問題で失った信頼を回復できる」。日興コーディアルグループの桑島正治社長は6日の会見で、シティ傘下入りを決めた理由を硬い表情で語った。東京証券取引所が近く上場廃止の是非の最終判断を下す。その前に支援先を見つけなければ、顧客離れが加速し、資金調達も滞って経営が行き詰まる最悪の事態が予想されたためだ。
今回、みずほフィナンシャルグループも出資比率を引き上げ、日興を支援する案を示していた。だが、シティは株式の公開買い付け(TOB)に最大1兆2530億円を用意し、上場廃止が決まれば資金支援も行う案を示した。追い込まれた日興は、世界最大の金融グループの豊富な資金力を背景にした救済案に飛びついた形だ。
ただ、証券業界には、97年に自主廃業した旧山一証券とだぶらせる見方もある。山一の店舗、社員は翌年、米大手証券メリルリンチが受け継いだ。「黒船来襲」と騒がれたが、資産運用中心の営業戦略が浸透せず、株式市況も悪化するなかで01年に個人業務の大幅縮小に追い込まれた。この経験から「外資色が強くなれば日興グループから離れる個人客、取引先企業は出てくる」(大手証券)との見方もある。
日興グループは98年にはじめてシティの出資を受けた。当時、社長だった金子昌資・前会長は、「シティの資本力とグローバル化に対応できる態勢を生かし、業界のリーダーになる」と打ち上げた。だが、その後も日興は野村、大和を追う業界3位のまま。シティの世界的な経営基盤を十分に生かせなかった。
シティは今回、日興を子会社化し、経営権を掌握するが、巨額の投資に見合った収益を求め、経営合理性を前面に打ち出すことが十分考えられる。「前経営陣とのかかわりが少ない」として、システム担当から起用された桑島社長ら経営体制の見直しや、成果主義的な人事制度を加速させる可能性もありそうだ。
◇シティ 日本で巻き返し図る
米シティグループが日興コーディアルグループを子会社化するのは、富裕層向け資産管理業務の撤退と、消費者金融事業の縮小という失敗を繰り返した日本で、本格的に巻き返しを図るためだ。シティは収益の4割以上を海外で稼ぐが、日本での収益は全体の1割に満たず苦戦が目立つ。今後、日興の個人・法人の顧客基盤を取り込み、シティの商品、サービスを提供して収益力を上げる考えだ。
シティグループは、総収益が10兆円を超える世界最大の金融グループ。しかし、最近は過去の多角化戦略が裏目に出て、経営不振に陥っており、米国では個人向け業務に力を注ぐバンク・オブ・アメリカの猛追を受けている。日本でも04年に中核事業だった富裕層向けの資産管理業務で法令違反を指摘されて金融庁の処分を受け、同業務から撤退。消費者金融事業も貸金業規制法の改正で国内店舗の大幅な縮小に追い込まれた。
シティが立て直しを図るには、国際部門の強化が急務。とくに日本市場を重要視しており、今年7月には国内で展開する銀行やカード会社などを傘下に置く金融持ち株会社を設立する予定だ。これに伴い、支店の倍増や、法人取引を現在の3倍に増やすなど、大幅な拡大策を打ち出しており、それに向け、日興の個人・法人の顧客基盤や販売網を活用する考えだ。
シティバンク在日支店のピーターソン最高経営責任者(CEO)は6日の会見で、「世界第2の経済国・日本における成長戦略を加速させる」と強い意欲を表明。日興の証券業務と、シティの銀行、クレジットカード業務の提携を進め、双方の顧客に互いの商品・サービスを提供し、資産運用商品の販売でも協力する考えを明らかにした。ただ、日興の子会社化に投入する資金が巨額なだけに、早期に本体の収益アップに貢献するかが成否のカギになる。
◇株価急落せず?
東証1部に上場している日興コーディアルグループの上場廃止問題は、東京証券取引所が近く最終判断をする。仮に上場廃止が決まると、日興株は現在の「監理ポスト」から「整理ポスト」に移され、1カ月後に上場廃止になる。日興の株主はその1カ月間は通常通り売買できるが、廃止後は、取引所で売買できなくなり、証券会社の仲介や自分で探すなどして売買の相手が見つかった場合のみ取引できる。
一般的に上場廃止が決まると株価は急落するが、シティは上場維持・廃止にかかわらず1株1350円でTOBを行うと発表しており、株価が急落することはなさそうだ。
一方、日興コーディアルグループ傘下で個人向け業務を行っている日興コーディアル証券や、法人業務を行っている日興シティグループ証券の営業は、上場が廃止されても通常通り行われる。
日興に株取引口座を持つ個人投資家は、上場廃止されてもこれまで通り同口座で株式が売買できる。顧客が日興に預けている投資信託などの資産は証券取引法の規定で分別保管されているため、確実に保全される。
また日興は多くの企業の幹事証券となり、新株発行などさまざまな事務手続きを行っているが、この業務も上場の是非にかかわらず従来通り。ただ企業側には、「日興が『外資系証券会社』となることに警戒感もある」という。
【ことば】日興の利益水増し問題 日興コーディアルグループは、子会社が04年に企業買収を行った際、不正な利益水増しを意図的に行い、05年3月期決算で経常利益を約189億円多く見せかけていたとして有価証券報告書の虚偽記載に問われた。買収資金を手当てするため債券を発行したが、発行日を改ざんし、債券の評価益を上乗せするやり方だった。日興側は不正を否定していたが、証券取引等監視委員会が不正を認定。当時の有村純一社長らが引責辞任に追い込まれた。今年1月、日興の調査委員会が「組織ぐるみ」とする報告書を公表した。
毎日新聞 2007年3月7日 0時14分 (最終更新時間 3月7日 1時27分)