銀行や郵便貯金のインターネットバンキングで昨年末までの3年間で不正に預金を引き出された被害が199件、被害額は3億円を超えることが分かった。大半は手口を解明できず、誰の犯行かも分かっていない。偽造・盗難キャッシュカード被害のように法的な救済措置もないため、金融機関が補償した件数は4分の1にとどまっており、預金者保護法の見直しをめぐり論議を呼びそうだ。
ネットバンキングはパソコンを使って送金できるサービス。金融庁が所管する約700の金融機関を対象にした調査によると、被害は05年以降、主要銀行から信用組合まで計105件、総額1億7400万円に上った。また郵政公社が04年以降に把握したのは94件で、総額は1億3900万円。両方を合わせると199件、3億1300万円に達している。
金融庁などによると、暗証番号を盗む不正プログラムのスパイウエアに感染したり、ファイル交換ソフトで暗証番号が流出した場合が多いとみられるが、手口を解明できたケースは少ない。
東京都目黒区のアルバイト男性(28)は昨年4月、わずか12分の間に50万円ずつ計200万円を見知らぬ人に送金された。送金を知らせるメールが銀行から携帯電話に届き、急いで問い合わせたが間に合わなかった。男性は「中古パソコンを使っていたので不正なソフトが組み込まれていたのではないか」と言うが、原因が分からない。栃木県の男性会社員(40)はパソコンに保存していたIDと暗証番号がネット上に流出し、昨年4月、約1000万円を別の銀行に送金され引き出された。
セキュリティー会社の担当者は「巧妙な不正ソフトが次々と作られ、対策ソフトでの駆除も難しい」と言う。
一方、金融機関が補償したのは42件で、補償を検討中とした25件を除けば被害全体の24%にすぎない。ネット専業銀行などは「原則補償」を打ち出しているが、郵政公社のように規約上、原則として補償しない所もあり、対応は分かれている。
安全対策を研究している日銀の幹部は「多くの被害が出た米国では金融機関が対策強化に乗り出したため、標的が日本に移るおそれもある」と指摘する。【ネット社会取材班】
毎日新聞 2007年3月22日 3時00分