安倍晋三首相は、松岡利勝農相が緑資源機構の談合事件に絡む政治献金を受け取っていた問題や光熱水費疑惑で与党内から辞任要求が出ても、擁護し続けた。柳沢伯夫厚生労働相が「産む機械」発言や公的年金の支給漏れ問題で批判を浴びていることから、「辞任ドミノ」を招き政権が弱体化しかねないと懸念したからとみられる。だが自殺という結末を迎え、首相の対応は裏目に出た形だ。
昨年9月の安倍政権発足直後から松岡氏に関する疑惑は絶えなかった。特定非営利活動法人(NPO法人)申請を巡り松岡氏の秘書が内閣府に審査状況を照会していた疑惑や、自らの資金管理団体による巨額の光熱水費疑惑、農水省所管の独立行政法人・緑資源機構の官製談合事件に関連した談合法人から献金を受け取っていた問題などが次々に浮上。そのたびに首相は「法にのっとり適切に処理していると報告を受けている」と松岡氏をかばった。
安倍内閣では、昨年末に本間正明前政府税調会長が公務員宿舎入居問題、佐田玄一郎前行政改革担当相が不透明な事務所経費問題で相次いで辞任し、内閣支持率が急落した。だが年が明けて首相は、「女性は産む機械」と発言した柳沢厚労相を擁護。首相官邸筋は「閣僚を1人辞めさせれば『辞任ドミノ』が起きる。柳沢氏を守り切ったのは大きい。松岡氏もここまで来たら辞めさせられない」と松岡氏擁護の方針を一貫して強調した。
自民党町村派の幹部が「地方を回れない農相、都会を回れない厚労相を抱えていては、参院選は厳しい」と参院選前の内閣改造に絡めて両閣僚を更迭するよう進言しても、首相は笑って聞き置くだけだったという。
だが各種世論調査で3~4月に内閣支持率が横ばいや上昇に転じ、「首相のぶれない姿勢が評価された」と首相周辺が喜んでいたさなか、公的年金保険料の大量の納付記録が不明になった問題で支持率が急落。松岡氏の自殺が重なり、政権の受けた打撃は計り知れない。「本当にショックだ」(首相周辺)、「首相にはかばい過ぎた責任がある」(津島派幹部)、「参院選にどう跳ね返るかわからない」(町村派若手議員)と影響を測りかねている。【佐藤千矢子】
毎日新聞 2007年5月28日 21時19分 (最終更新時間 5月28日 22時57分)