中国企業は世界のM&A(合併・買収)の舞台で主要なプレーヤーになってきたが、助言役の投資銀行は次第に置き去りにされつつある。
中国の商業不動産大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)によるスイスのスポーツ・マーケティング大手、インフロント・メディアの10億ユーロの買収が注目を集めているが、これは中国企業が資産取得に際して銀行を迂回した最新の事例だ。大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)や法律事務所のリード・スミスが役割に応じた手数料を受け取るものの、助言業務を行った銀行の名は挙がっていない。
銀行前ではためく中国の国旗=ロイター
万達のこれまでの主要な買収を見てみると、同様のパターンが見られ、AMCシネマズの26億ドルの買収やヨットメーカー「サンシーカー」の取得などに銀行が関与した形跡はない。
■社内の投資ノウハウに頼る傾向
中国の貪欲な企業の多くは、世界的な投資銀行に高額の手数料を払うよりも、社内の投資チームのノウハウに頼ろうとする傾向がある。
コンサルティング会社EYのアジア金融サービス責任者、キース・ポグソン氏は「仲介者が受け取る価値は、市場の参加企業によってさや取りされている」と指摘した。「多くの企業が人員を増やしている。今後一層、社内で案件を処理するのが標準的になるだろう」と述べた。
中国企業は新規株式公開(IPO)や債券発行には依然として手数料を払っており、中国の投資銀行部門の手数料総額は昨年、60億ドルの記録的水準に達した。だが、M&Aに関する利益は多くなかった。昨年の中国のM&A活動の助言業務で受け取った手数料は4億ドルにとどまり、アリババ集団や万達のIPOで銀行が稼いだのと同じ金額だった。これに対し、調査会社ディールロジックによると、米企業が支払うM&A助言手数料は110億ドル、欧州では60億ドルに達する。昨年、中国企業が国外でのM&A404件に投じた金額は720億ドルを記録した。
アリババも騰訊控股(テンセント)も2010年以降、海外案件に投資銀行を利用していない。中国民営複合企業の復星国際がこの時期に行った買収の上位10件のうち、銀行が助言したとされるのはわずか4件だ。米ニューヨークにある旧チェース・マンハッタン銀行の本店ビル「ワン・チェース・マンハッタン・プラザ」の取得に関して助言した銀行はなかった。中国の安邦保険が昨年10月、ニューヨークの高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアを20億ドルで買い取ったときも同じだ。
こうした傾向は、中国大手企業の内部で銀行業務を担う人材が増えていることで説明がつく部分もある。テンセントの戦略責任者、ジェームズ・ミッチェル氏は米ゴールドマン・サックスの出身であり、アリババに13年に移籍したマイケル・ツァイサー氏は、米リバティー・メディアでディールメーカーを務めていた。
By Josh Noble
(2015年2月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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