米国は、中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立することに反対の立場を示し、自己破滅的な状況に陥っている。米国政府は、まだ歩み出して間もないAIIBに、米国の同盟国が参加することを阻止できず、しかめっ面をしたまま蚊帳の外に追いやられた。この問題に対するオバマ政権の対応は見苦しく、アジアや世界のほかの国にとって不吉な前兆をはらんでいる。
AIIB開設準備のための会議に参加した代表らと談笑する中国の史耀斌・財政次官(左から2人目)(20日、シンガポール)=ロイター
今週、中国が主な出資国であるこの新たなAIIBの創設メンバー57カ国の代表が、ルール作りのためにシンガポールに結集した。出席国として、米国の同盟国である英国、フランス、ドイツ、韓国などが顔をそろえた。米国は別として、カナダと日本だけが出席していない。
米国は1945年以来、ドルの力とブレトンウッズ体制の輝かしい影響力、つまり世界銀行と国際通貨基金(IMF)に支えられ、世界の金融システムで主導的な役割を担ってきた。トップにいる者たちは厚かましいライバルの登場をめったに歓迎することはない。第一人者としての役割を手放すことはつらいことだ。
だが、AIIBに反対する米国の根本的な理由は辻つまが合っていない。中国の二面性を持つ貸出慣例が、公正なガバナンス(統治)という主張を実証できないのは事実だ。だが、AIIBを退けるには早い。中国の重商主義ははっきり示されている。
■金立群・初代総裁は信頼できる
中国は、尊厳ある多国間組織を主導できることを示したがっており、自らの政治色を強めないよう注意を払ってきた。中国は、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)での経験を持つ国際的官僚、金立群氏を初代総裁に充てた。同氏の信念は、世界的に受け入れられるガバナンスの原則を(AIIBに)適用することだ。
AIIBが中国の強引な力を行使するための手段ではないということに疑いを持つ国々を納得させることは、時間がかかり簡単なことではない。だが、金氏がこれまでにとってきた対応にはある程度信頼が持てる。例えば、同氏は幅広い人材を採用している。AIIBの職員のおよそ半分は、これまでのところ中国人以外の人々だ。また、AIIBの最終的なガバナンス体制はまだ確立していないなかで、中国政府はほかの参加国に体制監視の権限を与える意思があるように見える。
中国は、国内総生産(GDP)に応じて計算した出資比率を、アジア75%、アジア以外の国々25%という線で考えているとみられる。米外交問題評議会(CFR)のアナリスト、ステイル氏とウォーカー氏によると、現在の参加国の役割をベースにすると、中国の出資比率は43%になるとみられる。
中国は拒否権を発動しないという報告もある。もしこれが事実なら、米国がとっている対応よりも一段と民主的になるだろう。というのも、米国はIMFや世界銀行に20%未満しか出資していないにもかかわらず、最終的な決定権限を保持しているからだ。
■米国は自らの過ち認め、参加を
AIIB設立に関するオバマ政権の反射的な敵意は、米国がアジア地域の発展よりも中国を抑え込む方により興味があるという印象を与えてしまう危険がある。米国が中国の封じ込めに躍起になっていると言わせるような口実を中国にこれ以上与えることは、米国にとって賢いことではないだろう。
米政府の態度は、アジアの同盟国、とりわけ日本と関連している。日本はすでにADBの最大出資国であるにもかかわらず、AIIBへの参加を検討しているとみられている。
米国は日本に参加を見送るよう圧力をかけるよりも、米国の同盟諸国がAIIBに参加すれば、同盟諸国はAIIBのなかでより大きな決定権限を持ち、中国の決定権限を薄めることができると気づくべきだ。
AIIBの設立は、論争するどころか、中国が先進国の多国間協調主義を支持する基本原則をいかに促進できるかを見る事例になり得る。米国はAIIBや同盟国に関してうまく対応できなかった。米国にとって、自分の過ちを認め、AIIB設立に参加することが最善の策だ。
(2015年5月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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