「サバンナの掟」=「柿喰う客」提供
躍動感にあふれた動きとセリフで若者を中心に人気の劇団「柿喰(く)う客」が10周年を迎え、東京・王子の「花まる学習会王子小劇場」でフェスティバルを開催中だ。全5作品を演目を変えつつほぼ1カ月にわたり上演していくもの。代表で作・演出の中屋敷法仁(のりひと)は「10年でまとめに入るのではなく、まだまだ前のめりに、色んなことに取り組んでいきたいです」と語る。
劇団の旗揚げは2006年1月1日。持ち味であるみえをきるような派手な演技や、ダーッと言葉をぶつける勢いのあるセリフ回しは、当初から用いてた。大げさな表現を排する「静かな演劇」が主流だった当時の演劇界ではまったく評価されなかったという。
「『お前らみたいな芝居、昔あったよ』って言われましたね。静かな演劇も豊かなものだとは思うんですが、僕は、舞台で出す声は大きい方がいいし、衣装だってできればきれいなほうがいいと思うんです。何より、ふだんは見ない動きやセリフの方が、お客さんは『これはウソの世界なんだ』と、安心して芝居の世界に入ってきてくれます」
取り上げる世界は多彩だ。今回上演している5作品もそう。「サバンナの掟(おきて)」は売春女子高生と暴力刑事と買春政治家と闇の組織が縦横にぶつかる。「露出狂」は痴情とスポ根がもつれた女子サッカー部を、「フランダースの負け犬」は、第1次世界大戦に敗れるドイツの軍人を描く。「いまさらキスシーン」は陸上部の女子高生が主役の一人芝居。「へんてこレストラン」は童話「注文の多い料理店」を原作にしたダークファンタジーだ。
「女だけの世界とか、部活とか、軍隊とか、ある社会や共同体と個人の関係を、角度をつけて見せたいんです。個人とコミュニティーの軋轢(あつれき)、齟齬(そご)というのが現代を生きる人間の大きな問題だと思うので」
演劇を知ったのは幼稚園のお遊戯会で上演した「ピーターパン」だった。友だちもなく、部屋の隅にいる子どもだったが、お遊戯会では、役がありセリフもあるので、しゃべることができた。そういう世界もあると知ることで、リアルの世界も楽になった。
「演劇って、一瞬、リアルを忘れられるもので、だから再びリアルに戻って来たときに、少し生きやすくなる、そういうものだと思うんです。だから、一人でも多くの人に劇場に来てもらいたいですね」
目標は10万人を動員する公演。高望みすることで、演劇界全体も盛り上げたいという。
フェスは26日まで。一般料金は3300円~4300円。高校生以下は1千円~1400円。詳しくは、劇団ホームページ(
http://kaki-kuu-kyaku.com
)。03・6809・7125(ゴーチ・ブラザーズ)(星賀亨弘)