欧州各国の主な付加価値税率(%)
英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めたことで、日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)がどうなるか、注目を集めている。離脱派は「EUに制限されているVATの軽減税率引き下げを自分たちで決められる」と主張してきたが、離脱による財政悪化も予想され、減税が実現できるかは不透明だ。
特集:イギリス、EU離脱へ
「英国経済の必要に応じて法律を通し、税率を決められるようになる」。離脱派のボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、国民投票で離脱が決まった24日の記者会見でそう強調した。
国民投票で、VATの扱いは論点となっていた。離脱派が「EUに決められているもの」の一つとしてやり玉に挙げていたからだ。
EU指令では、単一市場の中で加盟各国の競争条件を公平にしようと、標準税率を15%以上と定めている。軽減税率も5%以上とし、適用できる対象も食料品や医薬品、新聞や本など21項目に限定している。
英国のVATの標準税率は20%だが、食料品の多くや子ども服などにはかからない。EU加盟以前から0%だったため、加盟後も特例で認められている。しかし、EU加盟後の1993年に導入した住宅向けのガス代や電気代のVAT税率は5%。EU指令でそれより低くできないからだ。
ジョンソン前市長ら離脱派は国民投票のキャンペーンで、「離脱すればEU指令が適用されず、英国からEUに毎年拠出しているお金を使って、ガス代や電気代にかかるVATを引き下げられる」と訴えてきた。
英国では、食料品など生活必需品の多くにVATがかからないため、20%と高い標準税率が受け入れられている面もある。そのため、「軽減税率の変更は、生活に直結するだけに関心が高い」(シンクタンクの英財政研究所のスチュアート・アダム氏)という。
国民投票を控え、キャメロン首相もEU側に働きかけ、3月には、加盟国が軽減税率の適用対象や税率をより柔軟に決められるようにする方針で合意した。英国では女性用の生理用品にかかる5%のVATについて「生活必需品なのに0%でないのは不公平」と批判が上がっていたため、合意文書に「生理用品を0%に下げる選択肢を与える」と盛り込ませた。
「EUに英国の改革を認めさせている」という残留派としてのアピールだったが、EU批判を展開する離脱派を押さえ込むことはできなかった。
とはいえ、離脱派が主張するVATの減税が実現するかは分からない。
英国は2008年の金融危機後、一時期はVATの標準税率を引き下げたが、財政悪化を受けてすぐに20%に引き上げている。オズボーン財務相は、離脱派の軽減税率引き下げ案を「絵空事だ」と一蹴し、「離脱で景気が低迷し、財政が悪化するので増税が必要になる」と反論している。