英国のEU離脱の影響は?
英国が欧州連合(EU)からの離脱を選んだ影響は今後、外交、経済、安全保障など多方面に及んでくる。英国や、「英国抜き」のEUとの間合いをこれからどうとるべきか――。米国、中国、ロシアなど主要国は情勢を見極めようとしている。
特集:イギリス、EU離脱へ
■米、EUへの影響力低下を懸念
「米英の『特別な関係』は不変だ」。英国のEU離脱が決まったことを受け、オバマ米大統領や政権幹部らは24日、同じ言葉を繰り返した。「特別な関係」とは、70年以上にわたる強固な同盟を指す。オバマ氏は英国、EUそれぞれとの関係や北大西洋条約機構(NATO)の重要性は変わらないことも強調した。
オバマ氏は同日、キャメロン英首相と電話会談し、経済や金融の安定に努めることで一致。オバマ氏は会談後「英国が混乱なく離脱への移行作業に取り組むと確信している」と述べた。
オバマ氏は4月の訪英時には「英国の影響力はEUによって高められている」「欧州が分断し始めるとNATOを弱める。我々の集団安全保障に影響を与える」と離脱のマイナス面を明言していた。離脱決定を受けて、反対にその懸念の払拭(ふっしょく)に動いている形だ。
米国は、EUと環大西洋貿易投資協定(TTIP)の妥結を目指す最中にある。英国と別に貿易協定を交渉する優先順位は低い。
米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のサラ・ビーデンボー研究員は「離脱は『特別な関係』の終わりを意味しないが、確実に影響がある。特にこの貿易領域だ」と指摘。安全保障面でも「英国のEU離脱とNATOは別だが、NATO内の欧州各国間の結束の欠如は諸問題の取り組みを難しくするだろう。離脱による足並みの乱れは、(ウクライナ問題などで緊張関係にある)ロシアを利する」と話した。
米国の対EU外交について、米ブルッキングス研究所のコンスタンツェ・ステルゼンミューラー上級研究員は「EU内にある英国との『特別な関係』のおかげで、米国はEUに影響力を及ぼす足掛かりを持てた」と指摘。「EUは戦略上、非常に重要。英国のEUへの影響力が落ちれば、米国はドイツとの関係を深めようとするだろう」と、「特別な関係」にほころびが生じる可能性に触れた。(ワシントン=杉山正)
■中国、英国は欧州市場への「足掛かり」
中国にとってEUは最大の貿易相手であり、地理的な要因から安全保障面での対立も少ない。東シナ海や南シナ海、人権問題などで摩擦を抱える対米、対日関係とは異なり、中国は経済中心の実務的協力を進められる欧州との関係を特に重視してきた。それだけに、英国のEU離脱による混乱への懸念が広がっている。