室生犀星(1889~1962)。60年頃、長野・軽井沢で
■文豪の朗読
《室生犀星が読む「鐵(くろがね)集」 江國香織が聴く》
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訛(なまり)のある声で訥々(とつとつ)と、詩人は『鐵集』から幾つかの詩を選んで読んでいる。緊張しているのか、ときどきつっかえながら、あまり嬉(うれ)しくなさそうに。そのソノシートがつけられた雑誌によれば、犀星はこの録音のために三日前から朗読の練習をしたそうだ。「私はこれらの詩の朗読中は、神妙に無心でやった。公(おおや)けの自作朗読ははじめてであって、これは私の死後にくり返されて、聴く人もあるのであらう。一詩人の生涯といふものは全部の作品を挙げて、死後のささやきとなり文学的遺言のやうなものに、なるのではないか」とも書かれていて、ある種の覚悟を持って臨んだ録音だったことが窺(うかが)える。きっと、とても真面目な人だったのだろう。
山の景色を描写した、荘厳だけ…