16日に通行止めになった登山道が再開する草千里ケ浜。左奥は白い噴煙をあげる阿蘇中岳=11日、熊本県阿蘇市、朝日新聞社ヘリから、長沢幹城撮影
熊本地震から5カ月となった14日。ちょうど1年前に大規模な噴火が起きた阿蘇では、観光客の落ち込みが続いたままだ。そんななか、16日には通行止めになった登山道の一部が再開する。完全に復旧していない施設もあるが、何とか観光客を受け入れようと模索している。
阿蘇市観光協会によると、市内の宿泊客は毎年80万人超を数えた。4年前の豪雨災害、2014年の御嶽山噴火と前後した阿蘇の火山活動の活発化の影響で減少。昨年9月14日には1979年以来の比較的規模の大きな噴火が起き、気象庁が噴火警戒レベルを初めて2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げた。
11月にレベル2に引き下げられ、観光客の回復途上で熊本地震が襲った。今年の夏は「ふっこう割」の効果はあったが、宿泊客は昨年の5~6割にとどまっているという。
阿蘇中岳火口を背景に火口跡の草地が広がる風景で知られる草千里ケ浜は、地震でアクセス道路や周辺の施設が被災。県阿蘇地域振興局によると、延長27キロの阿蘇吉田線は数十カ所にわたり崩れるなどした。
地震から5カ月がたち、全面通行止めになった県道阿蘇吉田線の国道57号側から阿蘇山上広場までの区間(東登山道)がようやく仮復旧し、16日から片側交互の通行が可能になる。
阿蘇市側の東登山道は応急工事を急ぎ、緊急車両が通れるようにした後、梅雨が終わり、余震が減るのを待ってガードレールなどを設置し、一般車両も通行できるようにした。当面、通行は午前7時~午後7時に限り、途中は片側交互通行となる。
■「今できる形で」 施設の再開準備
市観光協会事務局長の松永辰博さん(52)は「(登山道の再開が)復興に向けた転換点の一つになれば」と期待を寄せる。
県の所有する草千里と阿蘇山上の駐車場もひび割れなどを補修。水源が被災したトイレは、水量や配管を確認して観光客が使っても支障ないと判断した。
だが、多くの施設は完全に復旧しないまま、16日を迎えることになりそうだ。
草千里レストハウスを経営する菊池秀一さん(46)によると、露天でソフトクリームや高菜入り小籠包を販売するなど仮営業しながら再開の準備を進めるという。
昨年の噴火後の入山規制(火口から半径2キロ)にはかからず、噴火翌日には店を再開した。だが、毎年100校ほど店を訪れていた修学旅行の9割近くがキャンセルになるなど打撃を受けていた。そこへ地震が発生。「人が戻るか心配もある。今できる形でお客さんを迎え、復興の流れをつくりたい」という。
60年以上前、近くの農家が現金収入を得るために始めたという「阿蘇草千里乗馬クラブ」も、受け入れを準備する施設の一つだ。
「災害の度に観光客が激減し、風評被害に苦しんできた」と社長の末藤吉一さん(58)。今年2月には、人手不足で長く絶えていた草原の野焼きが約50年ぶりに復活し、「今年の草千里はまれに見る美しさ」と喜んだ。春休みは観光客も戻り、「これからだ」と意気込んだ矢先の地震だった。
地震で東登山道が通行止めになり、維持費だけが膨らむと考えて、4月下旬に休業した。16日の本震後に馬13頭を近くに移動させたが、環境変化に敏感な動物のため5月上旬に草千里に戻した。週3日、末藤さんや従業員が市内からエサやりや掃除のために通った。
今でも受付などに使う小屋はシャッターがたわみ、室内はロッカーや机が散乱したまま。9月は雨の日が多く、馬の調教や馬具の日干しなど再開準備が終わらなかった。シルバーウィークは台風が近づく恐れもあり、「16日は間に合わないかも。天候が回復してから再開したい」という。
「再開をお客さんはどう感じるんだろう」といった不安に加え、「周りの施設が間に合うか分からず、ここだけ再開するのは申し訳ない」と思うことも。そんな気持ちを抱えつつも、こう思う。「阿蘇は熊本観光の中心。元気になっていく姿をアピールしたい」(後藤たづ子、福岡亜純)