体内でアミノ酸のバリンが不足すると血液の細胞を作り出す幹細胞が減ることを、東京大医科学研究所など日米のグループがマウス実験で発見した。白血病患者への造血幹細胞移植では、重い副作用を伴う放射線治療や化学療法を事前に受ける必要があるが、その必要がなくなるかもしれないという。20日付の米科学誌サイエンス電子版に発表する。
白血病など血液の病気の患者が造血幹細胞の移植手術を受ける際には、免疫によって拒絶反応が起きないように事前に放射線や抗がん剤で自らの造血幹細胞をなくす処置が必要だ。その際、倦怠(けんたい)感や不妊などの副作用が起きることがある。
研究グループは、体内で自ら作ることができず、食物からとる必須アミノ酸のバリンがない状態でマウスの造血幹細胞を培養すると多くの幹細胞が死滅することを見つけた。バリン抜きのえさをマウスに与えたところ、体内の造血幹細胞が減った。このマウスに放射線治療なしで造血幹細胞を移植し、その後バリンを与えたところ、移植した造血幹細胞を体内で長期間維持することができた。
ヒトの造血幹細胞もバリンなしでは培養できなかった。ヒトの造血幹細胞をもつマウスをバリン抜きのえさで飼うと造血幹細胞が減少することも確認した。グループの山崎聡・東京大特任准教授は「血液の病気の患者にとって体への負担が少ない治療法の開発につながる。普通の食事でバリンを抜くことは難しいが、点滴などにすれば可能だと思う」と話す。(瀬川茂子)