昨年4月に公立化した山陽小野田市立山口東京理科大学=山口県山陽小野田市
経営環境が厳しさを増す私立大と若者の地元からの流出に悩む自治体。全国で進む私立大の公立化は両者のさまざまな事情や思惑が一致した結果だ。だが、少子化の流れが止まらない中、国や自治体の税金の使い方として効果的なのかといった課題は残る。
地方私立大、進む公立への衣替え 少子化で経営厳しく
「私にとって、公立はうれしい」。山口県の玄関口、山口宇部空港のロビーにはこんな看板が掲げられている。昨年4月、私立から「山陽小野田市立山口東京理科大」になったことのPRだ。
学校法人・東京理科大(東京)が1987年に設立した東京理科大山口短大が前身。当時の理科大は理学の普及のため、各地に「姉妹校」を展開し、地元も地域活性化の核となると歓迎した。旧小野田市(現山陽小野田市)などが短大設置時に約21億円、4年制大学への移行時に35億円の補助金を出した。
だが、「理科大」ブランドでも、ここ数年は定員割れが続いた。隣の宇部市にある山口大工学部との差別化も難しく、学費も6割以上高かった。山口東京理科大単独で計算した累積損失は約90億円に上って存続が危ぶまれる状況になり、「選択と集中」に踏み切った。
一方、人口6万人強の山陽小野田市も若者の県外流出が止まらず、大学がなくなれば、さらなる衰退につながりかねなかった。理科大の連結決算で損失分は解消。大学と自治体の考えが一致し、山陽小野田市が大学を引き受けた。隣接の山口大との違いを出そうと、公立化した山口東京理科大は2018年4月、山口大にない薬学部を新設する予定だ。薬剤師の資格が取れる薬学部は人気が高い。地元には製薬会社の工場も多い。6年制のため、全学年がそろえば720人。既存の工学部と合わせれば1600人ほどの学生を抱える計算になる。薬学部の教員や運営のノウハウは理科大が提供する。
その結果、公立化初年度の16年度入試の倍率は8倍と高く、大手予備校の偏差値も10ほど上がった。公立化で学費は下がり、応用化学科4年の大村拓さん(23)は「最後の1年だけでも学費が半額になり、親の負担が減ったのはありがたい」。保護者アンケートでも志望動機に「公立化」を挙げる人が多かった。
森田廣学長は「都会の大学では生活費がかかると逡巡(しゅんじゅん)する親は多い。地元に大学を存続させる意義は大きい」と話す。
公立化で市は国から学生1人あたり約170万円の地方交付税交付金を受ける。理系なので文系に比べて高めだ。市の試算では、定員割れが解消できれば、今後10年は市の負担は生じないという。
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