原発立地自治体に限って支払われてきた国の補助金が2017年度から、原発から半径30キロ圏内の周辺自治体にも支払われる仕組みに変更されていた。朝日新聞が調べたところ、17年度は周辺16自治体に少なくとも約5億円が支払われる見込みだ。
30キロ圏内には再稼働に慎重な姿勢をとる自治体もあり、今回の補助金の拡大に、再稼働容認の流れを広げる意図があるのでは、との指摘も出ている。
この補助事業は、16年度から始まった経済産業省の「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業」。廃炉が決まった自治体や立地自治体が原発への依存度を減らせるよう、新たに取り組む再生可能エネルギー関連事業を支援するとして始まった。
同省資源エネルギー庁によると、16年度の応募資格は原発がある道県と市町村だけだったが、要領を変更し、17年度から新たに「原子力発電施設から概(おおむ)ね半径30キロの区域を含む市町村、及び当該市町村が属する都道府県」を追加した。対象は150以上の自治体に広がった。
30キロ圏内の自治体については、東京電力福島第一原発事故後、避難計画の策定が義務づけられている。
要領は同庁のホームページで閲覧できるが、同庁は変更したことを報道発表していない。新たに対象になった自治体向けに説明会を開くなどして、拡大を知らせたという。
予算額は16、17年度は各45億円で、16年度の補助実績は立地12自治体に計3億6千万円。17年度について、同庁の資料を元に朝日新聞が各自治体に取材したところ、周辺16自治体に少なくとも約5億円が支払われ、立地自治体では21自治体に30億円以上が支払われる見通し。同庁は来年度の概算要求に50億円を盛り込んでいる。
同庁は取材に対し、補助金に応募したが認められなかった自治体があることは認めたが、自治体名は明かさなかった。
九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の30キロ圏内にある福岡県糸島市は再稼働への態度を留保してきたが、4月に容認に転じた。容認の表明は補助金交付決定の3日後だった。市議会では容認と補助金の関係を疑問視する指摘が出た。
同庁原子力立地政策室の若月一泰室長は対象の拡大について、「廃炉など原発による環境変化は周辺自治体の経済にも影響するため、周辺自治体も含めて考える必要があった」と説明している。(山本孝興)
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〈NPO法人原子力資料情報室の伴英幸・共同代表の話〉 この補助金は、原発依存体質の自治体が廃炉による影響を受けないよう、一定程度助成しようというのがそもそもの趣旨だ。それを30キロ圏の周辺自治体にまでいきなり拡大するのは理解できない。再生エネ促進を名目にしているが、それならば30キロに限るのは趣旨が違うのではないか。
再稼働手続きは立地自治体の同意だけで進んできており、周辺自治体は防災対策を迫られるものの、権限はない。今回の拡大には周辺自治体の懸念に対するちょっとした温情や、再稼働への同意をスムーズに得たいという狙いがあると見られてもおかしくない。