CATLが中国の工場で生産する車載用電池の基幹部品=同社提供
中国・福建省北部の寧徳市。海に面し、山が迫る緑豊かな田舎町に威容を誇る高層ビルがそびえ立つ。電気自動車(EV)用の電池をつくる新興企業、寧徳時代新能源科技(CATL)が昨年10月にオープンした本社ビルだ。
本社脇の工場には長さ約250メートルの最新鋭の製造ライン。36人で毎分20個の電池をつくる。2012年時点では150人で毎分2個のペースだった。生産効率は飛躍的に向上している。
研究所では、電池材料の開発に原子レベルから取り組む。約3400人のエンジニアを擁し、うち119人が博士号を持つ。17年は売上高の1割弱、16億元(約270億円)を研究開発に投資した。恵まれた研究環境にひかれて、国内外から優秀な人材が集まる。
創業は11年で、17年の電池出荷量はパナソニックを抜いて首位。わずか6年で世界最大手のEV用電池メーカーに急成長した。取引先は100社以上。メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン、BMWなどのドイツ勢、英ジャガー……。事業説明用の資料には、名だたるメーカーのエンブレムが並ぶ。中国では約30万台の車がCATLの電池を積んでいるという。
中国でEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の購入費の補助を受けるには、政府が選んだメーカーの電池を載せた車でなければならない。CATLなどの地場メーカーの電池だけが対象で、パナソニックやサムスン、LGといった日韓勢の電池は対象外。自国のEV関連産業を優遇する中国政府の姿勢は鮮明だ。
「電池を制するものが電動化を制する」(トヨタ自動車の寺師茂樹副社長)と言われるほど、EVやPHVにとって電池は最重要の部品だ。電池の重さやエネルギー密度、価格が車両の航続距離や収益性を大きく左右するため、メーカー間の開発競争は激しい。EVの販売台数で世界一になった中国は、その心臓部の電池でも主導権を握り、世界の自動車産業の勢力図を塗り替えようとしている。
国をあげての支援の効果は絶大だ。中国の調査会社によると、車載用リチウムイオン電池の出荷量(17年)の上位10社中7社を中国勢が占める。中国政府のCATLにかける期待はとりわけ大きい。「党建展覧館」と記されたCATLの本社ロビーの一角では、社内にある中国共産党委員会の活動が紹介されており、国との密接な関係をうかがわせる。事実、CATLのプロジェクトは国の経済計画「5カ年計画」に2回連続で組み込まれている。
CATLは近く深圳(しんせん)株式市場に上場する見通しで、調達した資金でさらに生産能力を強化する構えだ。副会長の黄世霖氏は16年の中国メディアの取材に、20年の出荷量を17年の4倍以上の50ギガワット時に引き上げる方針を明らかにしている。
中国国内にとどまらず、米、独、仏、カナダの主要都市に営業・開発支援の拠点を設け、日本にも「上陸」を果たした。横浜市で5月下旬にあった開所式にはトヨタ自動車やホンダ、日産自動車など日系自動車大手の幹部が顔をそろえた。早くから車の電動化に積極的な日産は、EV「リーフ」に載せる電池の調達先だったNECとの合弁会社を17年に中国系ファンドに売却。開発競争が激しい電池は外部調達に切り替えており、今年後半に中国で売り出すEVのセダン「シルフィ ゼロ・エミッション」にCATLの電池を採用することを決めた。ホンダもCATLからの調達を検討している。
CATLの独走を許すまいと、電池事業を家電に代わる収益の柱と位置づけるパナソニックも積極投資を続ける方針だ。津賀一宏社長は5月28日に北京市であった創業100年の記念式典で「中国は最もEV化が進展する国。性能を磨き、ナンバー1の電池をめざす」と強調した。
昨年12月にはトヨタとの提携強化も発表。現行のリチウムイオン電池の後継と目される「全固体電池」の開発を両社で加速させ、中国勢から主導権を奪い返すことをねらう。航続距離の短さ、充電時間の長さといったEV用電池の弱点を一気に解消する可能性を秘める技術で、20年代前半の実用化をめざす。ただ、CATLも全固体電池は「一生懸命開発している」(日本法人の多田直純社長)。競争は激しさを増すばかりだ。(北京=高橋克典、寧徳=福田直之)