慎泰俊さん(起業家)
親から虐待を受けている可能性がある子どもを救う方法の一つに、児童相談所が緊急的に避難させる一時保護があります。しかし、保護された子どもたちが生活する「一時保護所」が、傷ついた心をケアするような場所でないことは知られていません。
私は2015年以降、約10カ所の一時保護所を訪ね、2施設には住み込んでルポを書きました。驚いたのは、一部の一時保護所における刑務所のような雰囲気です。外壁は高く、窓は閉じたままで外へ出ようとすればセンサーが鳴る。食堂には1列に並んで入り、食事中は私語禁止。学校にも通えず友達へ連絡を取ることもできません。
なぜ、こんなに厳格なのか。職員に聞くと「子どもを守るため」と言います。押しかけてくる親もおり、非行を理由に保護された子どももいる。トラブルを防ぐため、無用な子ども同士の交流は避ける、ということでした。
現状を調べたのは、立ち上げたNPOでの活動がきっかけです。施設で暮らす子どもらを支援するなかで、保護所でのつらい経験を聞きました。裕福とは言えず、大変な家庭も多かった地域で育った私にとって、彼らの話はひとごととは思えませんでした。
過去には体罰を振るっていた所もありました。もちろんすべての保護所がこうした状態ではなく、子どもの権利を尊重していた施設もあります。ただ施設による差が大きい。また一時保護所の滞在期間は2週間以内が望ましいとされていますが、最近は児相の人手不足などの理由で平均30日と長期化しています。
現状を変えるには、国による監査で施設の質を全国比較するなどの情報公開が不可欠です。個々の子どもに合わせたケアをできるように児相の職員も増やすべきでしょう。保護所に代わって里親が子どもを預かり、地域から離れずに生活できる一時保護委託も増やしてほしいと思います。
こうした対策を実現するにはお金がかかります。しかし経済協力開発機構(OECD)の統計では、日本の家族・子ども関連の公的支出は36カ国中、下から8番目。日本の政治家が重視する施策は、自分たちに投票してくれる高齢者を向いたものなのです。子どもの福祉を訴える人たちの声は、あくまで子どもの「代弁」。事実より情に流されやすい日本の政治では通りづらいのかもしれませんね。
そもそも子育てはお金がかかるものです。親が無償で行う労働を行政が担う場合、どうしても多額の予算が必要になります。資源に乏しい日本が、このまま人を育てようとしなければ、経済成長は望めず国は貧しくなるばかりです。「未来」のために、子どもにもっとお金を使う国になってほしいと思います。(聞き手・藤田さつき)
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しん・てじゅん。1981年生まれ。途上国の貧困層に金融サービスを提供。2007年にNPO法人「Living in Peace」を創設。