7月上旬、日本陸連のマラソン強化戦略プロジェクトリーダー、瀬古利彦さん(62)と東京五輪のマラソンコースを巡った。東京が迎える2度目の五輪のマラソンコースは、首都のランドマークを縫って走るこの42・195キロが舞台だ。
「コース自体は全体的に平坦(へいたん)で走りやすい」。そう話す瀬古さんは、勝負のポイントを2カ所あげた。33キロ付近の皇居二重橋の折り返し点、そして40キロ付近の新国立競技場につながる新宿区富久町にある「安保(あぼ)坂」だ。
瀬古さんは皇居前の内堀通りを「太陽を遮るものが何もない。太陽ぎんぎんぎらぎら、大変なコースだと思う」。折り返しについても「いいペースで走ってきているところを一度落とさないといけない。リズムが狂ってしまう」と指摘する。消耗度合いによっては、再びのペースアップが難しい。「ここで遅れたら厳しい勝負になるよね」
レースは終盤、37キロ付近の飯田橋のあたりから上り坂になる。4キロで30メートルほどを上る。特に勾配がきついのが40キロ付近、靖国通りの安保坂。安保清種(きよかず)海軍大将の住居があったことから名付けられたという。坂が勝負どころになった五輪として、瀬古さんは1992年のバルセロナ五輪をあげる。ともに銀メダルを獲得した森下広一と有森裕子は、モンジュイックの丘を激走した。
安保坂のふもとに立った瀬古さんは言う。「相当きつい坂だけど我慢できないほどではない」。瀬古さんいわく、「だらだら続く坂より急坂の方が走りのアクセントにもなって攻略しやすいんだ」。安保坂を越えると、一度下って、競技場手前でもう一度上る。「先行しているアフリカ勢が消耗して上り切れない可能性もある。とにかく粘り強く走ることが大事」
ただ、いくら攻略法を練っても、おそらく最大の敵は「暑さ」。コース上はセラミックなどの遮熱材を吹き付けた「遮熱性舗装」が施される。国土交通省の計画に瀬古さんは以前から協力してきた。「選手に優しい道路。このあたりは日本の技術を最大限生かしたい」
東京五輪の代表選考会となるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)もほぼ同じコースで来年9月15日に実施する。「夏にどういう練習を積めばいいのか、選手は実感して欲しい」と瀬古さん。
さて、このコースで、マラソン・ニッポンの復活はあるのか? 「メダル獲得の目安は男子で2時間10分前後、女子で2時間26分前後。このタイムなら日本選手も十分に戦える」。瀬古さんは期待を込めて語った。瀬古さんが現役で走るとしたら、どんな作戦を立てるのか。「瀬古はトラック勝負とみんな思うだろうから、35キロくらいから飛び出すのもいいのかな。とにかくアフリカ勢が自分の持っている力を出したら、日本勢は勝てない。奇襲するヤツがいていい」(堀川貴弘)