上の命令に絶対服従、パワハラ、セクハラ――。平成が終わろうとするいま、「これって昭和のにおい?」と感じることが相次いでいる。平成30年の私たち、実はまだ「昭和93年」にいるの?
現在のオトナ帝国、ひどくなっている 映画監督・原恵一さん
いま僕ぐらいの世代は、「昭和」という時代に懐かしさを感じる人が多いかもしれません。冷房もなくて窓は開けっ放しだから、夕方になると「あ、隣は今晩はカレーだ」「魚焼いているな」と分かる。密室化した現在の日本では失われた、においを共有していた時代でした。
僕らが子どもだった1960年代、日本はまだ大した国じゃなかった。高度成長を経てバブルになり、「メイド・イン・ジャパン」はいつの間にか「ナンバー1」になった。そしてバブル崩壊。僕らの変化の体験はかなり密度が濃い。だからこれほど過去を懐かしむのかもしれません。
でも、僕たち大人が、過去へのノスタルジーばかりでいいのでしょうか。2001年に作った、クレヨンしんちゃんの映画「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」は、そんな内容がテーマでした。世紀末の日本に幻滅した悪役ケンとチャコが、未来への希望であふれていた高度成長期の日本に時代を戻そうとする。それにしんちゃん一家が挑む――というストーリーです。
実は制作を始めた時は、ネタがなくて困っていました。たまたま21世紀最初の年の公開の映画だったので、「21世紀」を見通そうとしたイベントだった1970年の大阪万博にこじつけました。僕は仕事で自分の過去を追体験する趣味はなかったんですが、この時は当時の写真や資料を集めて絵を描いていると、自分もここにいたんだ、と懐かしさがものすごく沸き上がってきました。
小学5年の時、僕も万博に行きました。映画にもそんな場面が出てきますが、人気のあるパビリオンは「3時間も並ぶんだから」と母に止められ、アフリカの民芸品ばかり見ることになって、不満たらたらでした。それでも「21世紀ってこうなるんだ」と素直にときめいたことを覚えています。
そんな感情がよみがえると同時に、「今の日本にあふれているのは汚い金と、燃えないごみぐらいだ」という、映画で悪役が口にするセリフが浮かびました。90年代、オウム事件や阪神大震災など大変な出来事が続く一方、大人は談合だ、ノーパンしゃぶしゃぶだなどと浮かれていました。こんな人にはなりたくない、と40歳の僕は見ていた。そんな気持ちがセリフに出たんだと思います。
ただ、僕自身は「昔は良かった…