西日本豪雨は、愛媛県宇和島市に住む9歳の少年のダンサーになる夢も、命も奪った。一緒に練習に励んできた仲間たちは28日、追悼の思いを込めてダンスを披露した。天国へ届け――。
被災地のために今できること…西日本豪雨支援通信
西日本豪雨、列島各地の被害状況は
亡くなったのは、同市吉田町の小学4年、横田海翔(かいと)君。自宅から車で30分ほど離れた市中心部の「パンプアップダンススクール」に小学1年から通っていた。「先生みたいなダンサーになりたい」。スクール代表の西蔭(にしかげ)徹さん(46)は、こう話していた海翔君の笑顔が忘れられないという。
「元気でやんちゃな子。とにかく頑張り屋さんでした」と西蔭さん。高校生や大人もいるスクールの中心メンバーの一人で、普段の練習では一番前のほぼ真ん中が定位置。昨年、大好きな動きの激しいストリートダンス「クランプ」を初めて発表会で踊ることが決まると、自宅で練習している動画を無料通信アプリLINEで西蔭さんに送って、アドバイスを求めた。
海翔君の家があった吉田町は、海沿いに家が立ち並び、すぐ裏に山が迫る。今月7日、豪雨で崩れた裏山の土砂が家に流れ込み、海翔君は母の真美さん(41)や祖母の数枝さん(67)とともに亡くなった。3人は仲が良い家族として地元でも知られていた。海翔君は22日に地元のダンス大会に出場する予定で、昨年優勝した子供の部での連覇をめざして練習に励んでいたところだった。
土砂崩れの数日前、西蔭さんはダンスに集中できていない様子だった海翔君を叱った。「先生、来週までに今日できなかったところ練習してくるから!」。レッスンが終わった後、海翔君から元気よく声をかけられ、西蔭さんは「よし、がんばろうな」と応じた。それが最後の会話になった。
西蔭さんは9日、まだ土砂崩れから2日しか経っていなかったが、「こんなときだからこそ、みんなが集まれる場所が必要ではないか」と考えてダンスのレッスンを再開した。生徒には被災した子どもたちも多く、なかなか集まらない日が続いたが、レッスン参加者も徐々に増えてきているという。
宇和島市の「道の駅みなとオアシスうわじま きさいや広場」で開かれる子ども向けイベントで、ダンスを披露しないかと主催者に誘われた西蔭さんは「海翔に向けたショーがしたい」と引き受けた。「追悼というと大げさかもしれない。でも、こんな状況だからこそ、踊り続けることが大切。ダンスはみんなを笑顔にできると思っています」
28日のダンスには小学生から高校生の17人が参加。披露したのは、地元の夏のイベントで市民らが踊っているダンスで、海翔君の告別式でもスクールの仲間が踊って別れを告げていた。中学1年の宇都宮寿樹(じゅき)さん(13)=愛媛県西予市=は「海翔は元気でおもしろい子だった。天国の海翔に届くように踊れた」と話した。(添田樹紀)