西日本豪雨による土砂崩れの影響で、広島県全域にテレビ放送の電波を送っている電波塔へ送電できなくなり、被害や支援の情報を被災者に届けていたNHKと民放の全放送が止まる恐れがあったことがわかった。テレビ局や電力会社が応急処置したが、接近している台風12号の進路次第では二次災害の恐れもある。
被災地のために今できること…西日本豪雨支援通信
西日本豪雨、列島各地の被害状況は
送電が止まったのは、広島市安芸区の絵下山(えげさん)(標高593メートル)の頂上付近に立つ電波塔「広島デジタルテレビジョン放送局」(高さ121メートル)。2006年にNHK広島放送局や県内の民放全4社が共同で運用を始めた。県全域の家庭や中継局にデジタルテレビ放送の電波を届けており、機能を失えば県内の全約120万世帯のテレビ放送が止まってしまう。
広島ホームテレビ(広島市中区)によると6日午後7時40分ごろ、主調整室のブザーが鳴り、電光板に「電源設備 停電」と赤いランプが表示された。絵下山で電柱が倒れて断線し、送電できなくなっていた。
すぐに非常用発電に切り替わったが、安定して運転できるのは4日ほどの可能性があった。電波塔の地下にある発電用の貯蔵燃料も10日分しかなかった。
窓に打ち付ける雨音を聞きながら、小平(こひら)俊也・技術局長(51)は「絵下山は特別な場所。やられるわけにはいかない」と思った。局員らが慌ただしく動き回り、中国電力への状況確認や、各社間との情報共有に追われた。
翌7日正午ごろ、広島テレビ(広島市東区)の技術者らが絵下山に入った。電波塔に通じるのは一本の山道。その少なくとも10カ所で大規模な土砂崩れなどが起きていた。
陥没した道ではガードレールが宙に浮き、ひざまである泥や倒れた樹木が立ちはだかった。何とか現場にたどり着くと、電波塔や、隣接する機材が入っている局舎は無傷だった。
「前例のない災害だ」「5社全ての放送を止めてはいけない」。7日夕方、NHK広島放送局に集まったNHKと民放4社は、発電用の燃料と新たな発電機を空から運ぶと決めた。
中国電力が9日、倒れずに残っていた電柱を使って電線をつなぎ、送電を復旧させたが、再び途絶える恐れもある。放送各局は11日、約35人で発電機と燃料をヘリで運んだ。
危機的な状況は回避されたが、まだ山道は完全に復旧していない。豪雨で緩くなっている地面が台風の風雨で崩落したり、新たな土砂崩れが起きたりする恐れもある。広島ホームテレビ技術局の金近泰幸さん(33)は「被災者が、放送を待っている。何としてでも電波塔を守っていきたい」と話す。(吉川喬)