池上彰の新聞ななめ読み
暑いこの時期は人事の季節でもあります。とりわけ霞が関の官僚たちの異動は関係者にとって気になるもの。役所が発表する人事異動を、記者はどう記事にするのか。記者の能力と新聞社の立ち位置が問われます。と書き出したのは、経済産業省の柳瀬唯夫・経済産業審議官の退任が決まったという記事を読んだからです。
柳瀬氏といえば、安倍首相の秘書官時代、「加計学園」をめぐり愛媛県職員らと首相官邸で面会した際、「本件は、首相案件」と発言したとされる愛媛県の記録が見つかり、国会に参考人招致されています。いわば今年の「時の人」のひとり。国会では面会の事実を安倍首相に報告していないと否定しましたが、その人が異動するとなれば、記者として記事にするのは当然でしょう。でも、どのような記事にするかが悩みどころです。経産相は「通常の人事」と言っているからです。記者はどんな工夫をしたのか。7月25日付朝刊の朝日新聞の記事を読んでみましょう。5面に3段です。
〈世耕弘成経済産業相は24日の会見で「加計問題は今回の人事に何ら影響していない」としたうえで、「世代交代」が退任の理由の一つだと説明。ただ、後任の寺沢達也・商務情報政策局長(57)は柳瀬氏と入省同期で、「世代交代」には当てはまらない〉
なるほど、世耕大臣の「世代交代」という説明に疑問を投げかける形で通常の人事ではないと表現しています。
毎日新聞はどうか。こちらは2面に「トカゲのしっぽ切り」という野党の批判を見出しにしています。
〈世耕氏は24日の記者会見で「世代交代を図らなければいけない面もあり、総合的に判断した」と述べた。ただ、柳瀬氏は通商政策を仕切る経産審議官に就任して1年で、必ずしも交代時期ではない。トランプ米政権が輸入制限など保護主義的な姿勢を強める中、日米両政府は近く新貿易協議(FFR)を始めることになっており、省内には「柳瀬氏は引き続き対米協議などに当たると思っていた」という声もある〉
世耕氏の発言が微妙で面白いですね。「面もあり」とか「総合的に判断した」とか。「面もあり」なら、ほかに何があるのかと突っ込みたいですし、世代交代と言っているのに「総合的」とはどういう意味かとか。
この記事の最後に自民党の吉田博美参院幹事長のコメントが出ていますが、これが傑作です。
「世耕氏が慎重に考えて決断し…