倉敷市宮前の楽器店「中川楽器」が、西日本豪雨で被災した管楽器を無償で修理している。思い出の楽器の輝きを取り戻し、その音色で被災地が元気になれば。そんな思いで泥だらけの楽器を磨き上げている。
中川楽器にはこれまで、土砂がこびりつくなどしたトランペットやサックスといった管楽器約60本が持ち込まれた。部品の交換代も含めて無償で修理する。社長の中川啓(けい)さん(44)が決めた。
被災地のために今できること…西日本豪雨支援通信
西日本豪雨、列島各地の被害状況は
JR山陽線倉敷駅の北約1キロにある店に被害はなかった。豪雨の後、ペットボトルに水道水を詰め、断水が続いていた倉敷市真備町地区で掃除に使えるようにと軽トラックで運んだ。浸水した家屋から出されるゴミの山を見て、中に楽器もあると思うと心が痛んだ。
「家やテレビは直せないけれど、楽器なら直せるから」。SNSなどで修理を受け付けることを伝えた。
専門技術を持つスタッフが水洗いし、バネやピストン、抜き差し管などに分解。超音波洗浄機で汚れを取る。磨き上げ組み立てると楽器は輝きを取り戻す。
同市真備町箭田の女性(49)は、高校3年の娘(18)のクラリネットが元通りになったと聞き、「感謝の思いを言い尽くせない」と声を詰まらせた。
自宅は2階まで浸水。ピアノ2台を含む家財道具は泥水の中で泳いだようになり、すべて捨てた。1階に置いていたクラリネットもケースごと水につかり、「だめかもしれない」と思いながら修理を頼んだ。
7月28日に「直りましたよ」と中川さんから連絡を受けた。「家のものが何もなくなった中で、宝物が残った。クラリネットが助かったことで、私たちの気持ちも救われた」と話す。
中川さんは中学の吹奏楽部でトランペットを始めた。「はーっ」と息を吹きかけて磨き、楽器を大切にすることを学んだ。豪雨で普段ピカピカの楽器が泥だらけになり、途方に暮れている子どもがいるのではないか。それが気がかりだ。
「今は音楽どころじゃないと思われるかもしれない。でも、復興した街には音楽が必要。その時のために、きれいにした楽器を返してあげたい」。中川楽器の電話番号は086・423・0121。学生優先で被災した管楽器の無償修理を受け付けている。(荻原千明)