白熱灯や蛍光灯から省エネ性能の高いLED(発光ダイオード)への切り替えが進む中、白熱電球を作り続ける企業が新潟市にある。LEDに置き換えにくい特殊な用途に特化し、生き残りを図る。
新潟市秋葉区の旧小須戸町にある電球製造会社「藤原電気」(本社・同市南区)の工場。2人の社員がピンセット状の工具で、髪の毛のように細い針金を折り曲げたり結んだりして、ジャングルジムのような形に組み立てていた。「継線」と呼ばれる、特殊用途の電球に使うフィラメントを組み立てる工程だ。
複雑な形状のフィラメントは、発電機タービンのメーターや電子レンジの庫内など、特殊な用途の電球に使われる。導線の荷重を分散させることで、激しい振動にも耐えられるという。藤原憲一社長(62)は「手作業で複雑なフィラメントをつくるノウハウを持っているのは、全国でも数社しかない」と話す。
終戦後の1945年12月に父親が創業。天然ガスがわき出るこの地域は戦後、家内工業が栄えた。最盛期の60年代には、大手の家電メーカー向けに電球をつくる事業所が300社以上あったという。「おやじの時代には、競馬で何十万円もすったという社長があちこちにいた」(藤原社長)
当初は家庭用の豆電球が主力だったが、80年代以降、人件費の安い海外からの輸入が増えたのを機に特殊用途にシフト。現在は500種類ほどの電球を、年間約120万個つくっている。
2011年の東日本大震災で省エネ意識が高まると、LEDは急速に普及した。東芝やパナソニックといった大手も白熱電球から撤退した。経済産業省によると、17年の白熱電球の生産量は約5億5700万個で、20年前(約22億8千万個)の約4分の1に減った。
ただ、藤原社長はこれを好機とみる。高齢化で廃業が相次ぎ、県内で電球を製造しているメーカーは5、6社ほど。同社の生産量もピーク時の約3分の1に減ったが、近年は廃業した他社の受注を引き受けるなどして、横ばいを保っているという。
今後は、シャンデリアや美術館の照明向けに、ガラス部分を着色したり、形状を工夫したりした製品にも力を入れる考えだ。藤原社長は「特殊用途は需要が少ないため、大手には手を出しづらい。他社がやめても、需要がある限り作り続けたい」と話している。(高木真也)