静岡県焼津市の県道沿いの民家で6月末、繁殖業者(ブリーダー)の男性(74)が転倒して入院し、24匹の甲斐犬が取り残された。それから約1カ月にわたり、親戚の看護師増田佐知子さん(45)が藤枝市から通ってボランティアと共に世話をしている。だが、いつまでも続けることは難しく、支援が必要な状態になっている。
男性は一人暮らし。20年以上前から自宅で犬の繁殖業を営んでいた。今年6月24日、転んで脳挫傷に。意識は戻ったが、今も意思表示が難しい状態だ。増田さんは男性のおいの妻。犬を飼った経験はなかったものの、窮状を見かねて7月初めから世話を始めた。
エサだけは別の親戚が朝晩あげていた。だが、ふんや尿は狭いケージに垂れ流し。生後2週間の子犬が5匹おり、3匹は死に、残る2匹もノミとダニにたかられ、瀕死(ひんし)の状態だった。妊娠したメスも1匹いた。動物愛護ボランティアに協力をあおぎ、医者にみせ、治療や中絶手術を行った。
甲斐犬は猟犬などとして利用され、一人の飼い主にしか懐かないと言われる。どの犬もケージからほえ続けていた。中でも「エフ」は手ごわかった。犬歯を見せてすごみ、よだれを垂らしながらケージの中でグルグル回っていた。
増田さんはひまを見ては訪れ、日中はケージから出し、散歩に連れ出したり暑さ対策の日よけを設置したりした。多くの犬が徐々に慣れ、尻尾を振るようになった。今ではエフが一番増田さんに懐いた。「一匹も殺処分をせず、生をまっとうしてほしい」と願う。
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ただ、24匹を飼い続けること…