(12日、高校野球 済美13―11星稜)
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はま風が吹いていた。2点を追う延長十三回無死満塁。済美の矢野は、右翼上空へ舞い上がった打球を追って走り出した。ところが「感触もなかったし、ファウルだったから」と、一塁手前で足を止めた。その意思に反して、白球はぐんぐんとフェアゾーンへ。
「切れていったボールが戻ってきた」。右翼ポール直撃。大会史上初となる逆転サヨナラ満塁本塁打に、「頭が真っ白になった」。
一方的に攻められた。八回表まで6点を追う展開。だが、「誰も下を向いていなかった」と主将の池内。ずっと掲げてきたテーマは「チームワーク」と「凡事徹底」。どんな時も、みんなで今できることを一つ一つ。そんな意識が選手の背骨を貫いている。
八回に6長短打を集めて試合をひっくり返した。逆転3ランを放った政吉が言う。「5点とったり、8点とったりしたことは今までもあった。だから、泥臭く粘っていこう、と」
九回に追いつかれ、十三回表で2点を先行されても選手たちは冷静だった。矢野も、もちろんその1人。4球目までは全て110キロ台の緩い変化球。「タイミングが合わなかった」。直球を一つ挟んだところで、次の一球を読む。「必ず同じ変化球で勝負してくる」と、6球目の甘く入った112キロを捉えてみせた。
「自分が打ったんじゃないみたい」。ひとごとのような歓声の中で、ダイヤモンドを駆けた。「自分のスイングができた」。できることを一つ一つ。土壇場で済美の信念が結実した。(吉永岳央)