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「おれたちサイボーグには肉体的な限界はないが――人間にはある」。石ノ森章太郎作「サイボーグ009」の主人公島村ジョーが指摘するように、生身の人間には身体的な限界があると思われてきた。ところが今、常識に挑戦するように、人間が持つ運動や知覚、認識能力をテクノロジーで「拡張」する研究が進んでいる。月面を跳んでいるかのようにジャンプできたり、家にいながら旅行体験ができたり、憑依(ひょうい)や幽体離脱のような視点を得られたり……。「あんなことできたらいいな」を次々とかなえる研究者、暦本純一さんに聞いた。人間はどこまで拡張できるのか、どこまでが自己なのか?
働かざる者も食っていい AIが仕事を奪う未来の生き方
最新の研究「オーグメンテッド・ジャンプ」の映像を前に語る暦本純一・ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長=東京都文京区の東京大学
――研究テーマは「人間の拡張」。どんな意味なのですか?
「義手や義足などでハンディキャップを克服することにとどまらず、人間の元々持っている運動や感覚、認知などの能力を伸ばして、ゼロをプラスにすることも含むテクノロジーです」
――なぜこのような研究を?
「子どもの頃からSFを読み、未来を想像するのが好きでした。ロボット工学者は、鉄腕アトムに憧れたという人が多いのですが、私はサイボーグ009派。自律する完全なロボットより、単純にかっこいいと思ったんです。自分ができないことが、できるといいなという気持ちが根源的にあります」
――サイボーグや人工知能(AI)とどう違うのですか?
「サイボーグは人をベースにしていますが、義足や人工臓器のように物理的に体にくっついている特徴があります。拡張はそれよりも広い。AIはそもそも人間に成り代わる知能をつくる発想ですが、その技術をも取り込んで人間の能力を伸ばすアプローチが拡張です」
「例えばパソコンのマウスもそう。操作する人にとって、画面に現れたカーソルは一体感がありますよね。体から離れていてもいいんです。歌舞伎などのイヤホンガイドも感覚の拡張と言ってもいいでしょう。20年以上前に、初めて見た時に借りたのですが、わかりにくいセリフのところで絶妙に解説を入れてくれる。今でいえば、グーグル・グラスなどウェアラブル(身につける)端末と同じ発想ですね。ガイドを使うと私は突然「歌舞伎に詳しい人間」になって、隣の妻に解説をしていた(笑)」
――具体的にはどのような研究をされていますか?
「直近では複数のドローンで体を持ち上げ、月面を跳ぶような感覚が得られる『オーグメンテッド・ジャンプ』です。これはサイボーグに近い身体的な拡張ですね。高齢者や体の不自由な人が自宅にいながら旅行を味わえるような『ジャックイン・スペース』もあります。大きなディスプレーで四方を囲われた部屋を作ります。利用者の友人が、カメラを搭載したロボットを旅行に連れて行けば、ロボットが見た映像がディスプレーに映し出されます。一方、ロボットにもディスプレーやスピーカーを搭載して、利用者の映像や声が映し出されるようにする。利用者は、友人と会話しながら体験を共有できます」
「『ジャックイン・ヘッド』と…