東日本大震災で多くの職員が亡くなった岩手県大槌町旧庁舎の解体を巡り、住民団体代表らは17日、平野公三町長を相手取って解体工事の差し止めなどを求める住民訴訟を盛岡地裁に起こした。解体のための公金支出停止などを求めた住民監査請求が先月25日、退けられ、提訴に踏み切った。
訴えたのは、住民団体「おおづちの未来と命を考える会」の高橋英悟代表(46)と、旧庁舎前で災害対策本部の設置準備中に津波の直撃を受け亡くなった町職員28人のうち1人の母親(64)。「震災遺構としての価値評価」などを求めて監査請求していたが、監査委員は「庁舎に財産的価値はない」と認定した。
原告側は訴状などで「津波で大破した庁舎の所有目的や価値は変化しており、十分な検証なしに解体を決めたのは適正な公有財産管理を求めた地方財政法などに違反する」と主張。高橋代表らは「避難が遅れて犠牲が増えた原因の検証も終わっていない」として、震災の教訓を後世に伝えるための社会的・文化的価値の評価・検証と現場保存を求めている。
解体工事は、町議会での解体費4700万円の予算案可決を経て5月末からいったん始まったが、直後に発がん性物質アスベストの調査が済んでいなかったなど、無届けの違法着工が発覚し、中断している。
弁護団によると、震災遺構として庁舎の保存を求める訴訟は全国初という。平野町長は「町では訴訟について確認していませんが、訴訟が提起されたのであれば、内容を確認したうえで適切に対応します」とのコメントを出した。(本田雅和)