中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。かつて世界4位の湖面積があったが、半世紀の間に10分の1に干上がった。水が残る湖西部の南には、一面、純白の世界が広がっていた。
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天国に一番近い場所はここではないのか……。そんな言葉が頭に浮かぶほど、純白の塩に囲まれた世界は、神秘的な美しさを醸し出していた。
アラル海から南に車で約3時間の距離にあるバルサケルメス湖。塩が結晶化して固まった白い湖底は地平線まで続き、透明な水で覆われていた。真っ青な空を映し、水は青みがかって見え、風が吹くと湖面に波の幾何学模様が浮かんでは消える。
バルサケルメスは地元の言葉で「行ったら帰らない」と言う意味。遠浅のためか、湖を歩く人が水に浮いているように見え、本当に湖に溶け込んでしまうような気になる。
ただ美しい塩の湖底に裸足で立つと、ごつごつして堅く、とても痛くて歩けない。夏になると水は完全に蒸発し、完全に真っ白な塩の世界になるという。この日も水が干上がったばかりの場所には、四角い塩の結晶が重なっていた。
湖があるのはアラル海とカスピ海の間に広がるウスチュルト台地。地元観光業者によると、広さは約2千平方キロと大阪府よりやや広いほどの規模だ。
1億年ぐらい前、地中海から黒海、アラル海などの一帯はテチス海と呼ばれる浅い海だったが、その後の大陸移動で水が閉じ込められた。大量の塩はテチス海の名残だという。
真っ白の世界に包まれながら、古代から続く営みに思いをはせた。(中川仁樹)