カーキ地に白い線で、戦闘機の内部が精密に描かれている。搭載できる大小のミサイルもずらり。「道の駅かでな」(沖縄県嘉手納町)で人気のTシャツだ。定価は税込み2千円。連日訪れるようになった中国人観光客にも評判だ。地元で生まれ育った元駅長の仲村渠(なかんだかり)稔さん(57)がデザインにこだわり、売り出した。
続く本土との溝、基地問題の行方は…沖縄はいま
町は、面積の8割を嘉手納基地など米軍基地が占める。基地には3700メートル級の滑走路が2本あり、約100機が常駐。北朝鮮の動きをにらんだ他国の軍用機もよく飛来し、地元テレビ局のニュースは13日も知事選告示に続き、動向を伝えていた。
ただ、仲村渠さんにとって基地は、祖父と父が家族のために働いた場所。自身も3年間、基地内でカフェを営んだ。「極東最大級の米空軍の拠点」「抑止力の象徴」は、なくならない、風景の一部だ。
Tシャツのきっかけは2009年、道の駅の駅長に就いたときだった。黒字化を託され、銃弾をかたどったちんすこうを店頭に並べた。「基地を売りに」との狙いだったが「戦争を連想させる。撤去を」とクレームがついた。ちんすこうは取りやめた。それでも、何か売れるものをと考え、オリジナルTシャツを作成。年間1300枚以上が売れるヒット商品になった。
物言いがついた理由は、よくわかっている。基地は、沖縄戦で上陸した米軍が日本軍の飛行場を接収し拡張してできた。戦後も、米軍機の墜落事故で住民が亡くなり、今も未明から騒音が鳴り響く。仲村渠さんの先祖の土地も、基地内にある。
風景の一部ではあるけれど、自ら選んだものではない。暮らしそのものでありながら、沖縄の、日本の矛盾そのもの。道の駅には、基地との共存を強いられた町の歴史を伝える展示がある一方で、滑走路を見渡す展望場も、基地内で味を磨いた夫婦がつくるチーズバーガーもある。「知事選でも話題にならないですが、Tシャツに袖を通したときくらい、嘉手納を思い出してもらえれば」。仲村渠さんは、そう言う。(成沢解語)