米の卸会社から弁当店、コンビニ、冷凍食品メーカー。広島県海田町の「ポストごはんの里」はその姿を何度も変えてきた。でも、その軸は決してぶれていない。中村誠一社長に、次の展開を聞いた。
――何をしている会社なのですか。
「大きく二つあります。お米を大量に炊き、スーパーに販売する炊飯事業。炊いたお米を使って、いなりずしや巻きずし、肉巻きおにぎりをつくり、急速冷凍して販売する冷凍食品事業です」
――冷凍食品事業について教えて下さい。
「業務用が大半です。病院や介護施設、ホテル、遊園地など全国各地で利用してもらっています。冷凍いなりずしは1日の生産が7万個ほど。巻きずしは2千本、肉巻きは1万個です」
――人手不足が追い風になっているそうですね。
「調理現場では、少しでも手間を省きたいというニーズが広がっています。例えば、病院で数十人分の助六ずしを用意しようと思ったらとても大変。でも、うちの冷凍商品を使ってもらえば簡単にできます」
――おいしさの秘密は?
「詳しくは言えないが、使うお米の銘柄や炊き方、急速冷凍の時間といった技術やノウハウがあります。米の卸会社からスタートし、その後、弁当や総菜を自分たちで提供するコンビニの経営になり、そして今の食品メーカーへと事業を変えてきた歴史があります。米卸のころから蓄えてきた米に関する知識や研究の積み重ねが生きています」
――それは、味の面ですか。
「米は温度変化に弱く、冷凍や解凍をすると、米から水分が抜けてぼろぼろになってしまう白蠟(はくろう)化という現象が起こります。白蠟化を起こしにくい技術によって、おいしいと感じていただける味や食感にしています」
――競争相手は。
「私たちの商品市場はニッチで、大手が力を入れている商品とは土俵が違います。冷凍食品事業は、設備や冷凍のまま運んでもらう物流業者の手配が必要となるなど、投資がかさみ、参入障壁が高いという特徴もあります。弊社が展開する領域では高いシェアを持っており、今後も、増産のための設備投資に積極的に取り組みます」
――次はどんな商品を出すのでしょうか。
「大手や競合他社と同じことをやっていても意味がなく、自分たちしかできないことを考え、価値をつくっていきたい。今進めているのが、既存の炊飯ラインをいかして、大量の冷凍おはぎを生産することです。おはぎ以外にも冷凍和菓子の商品ラインナップを増やそうと思います。和菓子ならゆくゆくは海外への輸出も狙えるのではと期待しています」
――家庭用でも需要がありそうです。
「冷凍食品事業は業務用が売り上げの80~85%ほどを占めます。一方で、共働き世帯などが増え料理に時間をかけられず、家庭でも冷凍食品に対する需要が高まっています。(業務用の)冷凍ずしを小分けした商品をつくるなど、スーパーや生協、通信販売といった販路で、今は少ない家庭向けを伸ばしたいです」
――炊飯事業の方はどうでしょう。
「売り上げが減っていく厳しい環境にあります。大手スーパーが増える一方で、経営体力に劣る地場は少なくなる傾向が続いています。大手は自社で炊飯センターを持っているので、取引先が減ってきているのが実情です。スーパーは価格競争が激しく、米を納める私たちにとっても大変です。炊飯事業の落ち込みを、冷凍食品事業の伸びでカバーしていくしかありません」
《なかむら・せいいち》1980年生まれ。広島県府中町出身。広島城北高校から京都大学経済学部へ。IT系ベンチャーを経て2006年、ポストごはんの里に入社。14年、父親を継ぎ、社長に就任した。
《ポストごはんの里》1982年、弁当店として創業。会社設立は86年。従業員約140人(7月末現在)。2018年6月期の売上高は約13億円。(聞き手・近藤郷平)