教室からロボットを遠隔操作し、遠く離れた宇宙センターなどを実際に見学しているかのように体験する――。山や海など自然に恵まれた大分県で、「アバター(化身)」技術の実証事業が進められている。首都圏にいながら、大分にいる釣りロボットを操り、力強い魚の引きを体感するといった仕掛けも準備が進む。
「はい止まって! そこでちょっと右を向いて」。車輪つきの台座の上、児童の背丈ほどの高さにカメラつきのモニターを備えた自走式ロボット「ビームプロ」が4日、大分県立美術館(大分市)の1階フロアをスタッフに導かれながら動き回った。
操作するのは、直線距離で40キロ以上離れた、中津市立真坂、日田市立高瀬、佐伯市立佐伯東の3小学校の児童ら。ロボのモニターには教室のパソコンで操作する子どもたちの姿が、パソコン画面には美術館1階フロアの様子が映し出される仕組みだ。児童らは、画面を通して潜水調査船やロケットエンジンの模型が並ぶ企画展を見て回り、職員から説明を受けた。
11日には、この技術で筑波宇宙センター(茨城県つくば市)を「見学」。真坂小から参加した6年生17人は、パソコン画面に現れる国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」や小惑星探査機「はやぶさ2」などの模型を見ながら、「人工衛星の部品の数は」「(宇宙で)壊れたときはどうするの」などと質問した。
いずれも、ANAホールディングスが今春から取り組む「ANA AVATAR(アバター) VISION(ビジョン)」の一環。身代わりロボを介して現場と遠隔地を結ぶ技術の確立が目的だ。観光、教育、農林水産、医療、宇宙など多分野で活用が期待されている。山や海などの自然に恵まれ、新分野の事業に対する行政の支援も整っているとして、大分県が実証の舞台に選ばれた。
例えば、豊後水道に面した佐伯市の海上釣り堀にある釣りロボを首都圏から操り、タイやシマアジなどの引きを体感。釣れた魚が釣った人の元に送られるような仕掛けも準備中だ。農業では、遠隔操作で野菜や果物の植え付けや管理をする実験も予定される。
ビームプロによる実証事業は、広島平和記念資料館(広島市)と沖縄美ら海水族館(沖縄県本部町)でも実施中。ANAは、現地に行けない人でも様々な体験ができるサービスを来春から始められるよう、準備を進めている。(寿柳聡)