茨城県庁が全国に先駆けて進めた電子決裁をめぐり、庁内の見方が割れている。担当課は電子決裁率がほぼ100%に達したことを「庁内改革の成果」とアピールするが、職員からは「実態は紙時代のまま」と疑問視する声が上がる。どうなっているのか?
行政システムを担当する自治体職員の間でこの夏、衝撃が走った。県が8月末に「電子決裁の推進開始から4カ月で99・1%を達成」と発表したためだ。東京都など県内外の自治体や公共機関から40件以上の問い合わせがあり、視察の依頼も受ける。
電子決裁率の全国統計はないが、ほとんどの自治体は10%以下とみられる。県庁でも昨年度は11・8%だった。改善を迫られている自治体からすると、「どうやったらそこまで急上昇するのか?」というわけだ。
県は急速な改善理由を、昨年就任した大井川和彦知事の「強いリーダーシップによる改革の成果」と説明する。電子決裁システムは13年前からあったのに、利用が低迷していたためだ。ただ、職員からは99・1%という数字が「大げさだ」という批判も聞こえてくる。
複数の職員によると、現在でも部内レベルの決裁では従来通り紙の文書も手渡しで回覧され、決裁印の欄に印鑑を押して回しているという。正式な決裁はパソコン上で行うが、慣習として残っているようだ。本庁の課長級職員は「画面で文書を確認するには限界がある。各自で印字するのも無駄なので、紙を回している。パソコン上の作業は承認のクリックだけ」と話す。
端末上での確認が難しいのは、決裁書類に添付される資料が多いためだ。参考として付ける前年の文書などだけで数十枚に上るケースも少なくない。建設関係だと、大型の図面が付属するため、電子化すること自体が困難という。
別の中堅職員も「電子化するにはスキャナーで取り込む必要がある文書もあり、手間がかかる。電子決裁化で、一般職員の業務量はかえって増えているとも感じる」と話す。
職員からの不満に対し、電子決裁を推進する県ICT戦略チームは「行政プロセスの透明化という最大の目的が認識されていない」と嘆く。大きな目的の一つが、改ざん防止にあるからだ。紙の決裁だと、文書差し替えをすれば改ざんは容易。一方、県の電子決裁システムでは決裁後に字句を変更することは不可能で、途中で変更をしてもすべて記録されるという。
負担増の批判にも「決裁判断に直接関係ない参考資料などは、電子化する必要はないと説明している」と反論する。庁内のホームページに電子化に応じた決裁文書作成のマニュアルを載せているが、一般職員には徹底されていないようだ。
菊池睦弥チームリーダーは「慣れるまで負担に感じるかもしれないが、正しく運用すれば必ず業務軽減につながる。根強い『紙文化』を変えるには時間がかかるが、理解に努めていきたい」と話す。(重政紀元)