第2次世界大戦中に行方がわからなくなったゴッホ(1853~90)の名画「タラスコンへの道を行く画家」を、大塚国際美術館(徳島県鳴門市)が陶板(とうばん)複製画で再現した。ゴッホが生涯で描いた唯一の全身自画像だ。3日から同美術館で公開する。
「タラスコンへの道を行く画家」は、ドイツ中部マグデブルクのカイザー・フリードリッヒ美術館(現・マグデブルク文化歴史博物館)が所蔵していた。1943年、戦火を避けようと、軍需工場のあった岩塩坑(深さ約500メートル)に他の作品とともに避難させた後、行方がわからなくなった。
45年4月に2度火災が起き、保管中の絵画が燃えたという新聞記事もあるが、「タラスコン」が焼失したかは不明だ。同じ場所に保管されていた資料がその後、米国で発見されたという例もあり、盗まれた可能性もあるという。岩塩坑は地盤沈下で水没し、今は立ち入ることができない。
複製計画が持ち上がったのは今年3月。大塚国際美術館で展示されていた「ゴッホのひまわり」7作品の陶板複製画を見た英国人のゴッホ研究者マーティン・ベイリー氏から、「この技術で失われた作品をよみがえらせてほしい」と提案を受けた。
マグデブルク文化歴史博物館が、1930年代に撮影されたとみられる作品のカラー写真データを提供。8月には、大塚国際美術館の浅井智誉子学芸部長と同美術館絵画学術委員の千足伸行・成城大名誉教授(西洋美術史)らが現地に赴いて、記録を調べた。
複製画は2点作られ、1点を大塚国際美術館で公開し、1点をマグデブルク文化歴史博物館に寄贈する。同博物館のトビアス・フォン・エルスナー前副館長は「すばらしい作品が地域にあった記憶が薄れる中、よみがえるのはうれしい。作品に再び光が当たるきっかけになれば」と大塚国際美術館の担当者に話したという。展示の問い合わせは同美術館(088・687・3737)。
■「うきうきした気持ち伝…