日本中のどこの酒屋でも買えない焼酎を、高知県四万十町の「銀行」が売っている。栗焼酎「ダバダ火振」で知られる酒造会社「無手無冠(むてむか)」運営の四万十川焼酎銀行だ。
あの子はなぜヤギ連れてるの 四万十のハイジ、日々散歩
厚さ21センチの金属製の扉の奥に、美濃焼のつぼに入った栗焼酎が眠っていた。焼酎を寝かせる金庫だ。
「頭取室」と書かれた看板の部屋に入ると、鍵がかかった書庫にも焼酎のつぼがずらりと並んでいた。
四万十川焼酎銀行へは高知市から特急と普通列車を乗り継ぎ、約2時間。酒蔵や「銀行」がある四万十町大正地区は山深い里である。同地区がある町の西部では栗栽培が盛んだ。
2011年、「無手無冠」の当時の故・山本彰宏社長が設立した。大正地区の高知銀行大正支店が移転。にぎわいが失われると心配した彰宏社長は支店の建物を買い取り、そのまま利用した。その後、遊び心で銀行業務をまねた。
うたい文句は「預貯金ならぬ預貯酎(よちょちゅう)」。仕組みはこうだ。
「口座」を開くと通帳が発行される。預け入れる栗焼酎「預貯酎」は1口720ミリリットル(税込み5千円)。主力商品の「ダバダ火振」は栗を50%使っており、「預貯酎」は75%使う。アルコール度数は30度だ。
「定期」の満期は1、2、3年から選ぶ。「利子」は預け入れたものと同じ栗焼酎。1年満期で36ミリリットル、2年で72ミリリットル、3年で108ミリリットルが小瓶で支払われる。
「年利5%相当になりますかね。この低金利の時代に、うちは結構な高金利なんですよ」
「行員」として焼酎の管理や販売を担当する橋本琴恵さん(35)は笑う。「普通」には「利子」の焼酎はつかない。
試飲をお願いしたが、注文分しか「銀行」で熟成させていないので余りがないとのこと。まさに「秘蔵の逸品」だ。代わりにつぼに入れる前の「預貯酎」を特別に飲ませてもらった。
さわやかな甘さ。栗の本来の風味が舌の上でさらりと消え、口中から鼻に抜けていく。「これが熟成されるとどう変わっていくんだろう」
記者は高知県に赴任して以来、「ダバダ火振」を日々愛飲してきたが、これもおいしい。おもわず、3年の「定期口座」を新規開設してしまった。
「預貯酎」は発売以来、約2千口を集めた。毎年500口の限定販売。ここでしか買えないプレミア感が強く、酒好きの間で知名度が上がってきた。1人で最大20口をもつ顧客もいる。「寝かせると味がまろやかになります。子どもの成人式などお祝い事にもぜひ」と橋本さん。
「銀行」の窓口では「ダバダ火振」など通常の焼酎も販売しており、知る人ぞ知る観光名所になっている。口座開設や問い合わせはホームページ(
http://www.40010shochu-bank.com/
)もしくは同行(0880・29・4800)へ。(菅沢百恵)